カナイノゾム研究室

聖書のメッセージや社会評論などを書いています。

姥捨て山は今もある!

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竹本直江(たけもと なおえ)さん(仮名)は、定年まで教師を勤め上げた、聡明で温和なご婦人でした。
退職後は、病気を持つ夫君の世話をして、そのご主人を先に天に送りました。

その後、直江さんは、ひとり娘の泰代(やすよ)さん(仮名)と二人で、小綺麗なアパートで暮らしていました。

老いても、自分で何でもする、気丈なご婦人でした。

近所にある教会の礼拝に参加することを、何よりも楽しみとしていて、いろいろな問題を常々、中井聖(なかい きよし)牧師(仮名)に相談していました。


直江さんは、顎関節症を長年、患っていました。
ある年の春に、直江さんは食事がのどを通りづらくなって、栄養失調となり、また、肺炎を起こしたため、自宅近くの南部記念病院(仮称)に入院しました。


入院するしばらく前から、直江さんは軽度のうつ的症状が出て、夜中に叫んだりすることがありました。
そのため、直江さんが退院する時に、泰代さんは同居を嫌がりました。
ケアマネージャーのアドバイスにより、直江さんは、少し離れたところにある、森中病院(仮称)という精神科病院に入院することになりました。
いわゆる社会的入院です。


森中病院は、小さな山の林の中にあります。
長い曲がりくねった一本道の突き当たりです。
高い壁で囲まれているため、外から中は見えません。
バスなどの公共交通機関はありません。

森中病院には閉鎖病棟しかありません。
門はいつも施錠されており、門から玄関を経て病室まで、4~5回鍵を開けなければ行けません。


直江さんが入ったのは、10人くらいが一緒の大部屋でした。
ベッドの間を仕切るカーテンはありません。
プライバシーは全く守られません。
その部屋のほとんどの人が寝たきり状態です。

直江さんが入院すると、
「一週間は面会謝絶です」
と、病院から泰代さんに説明がありました。


直江さんはすぐに、精神安定剤睡眠薬などを注入されて、寝かしつけられました。
後で食事表を見たところ、直江さんはそれから10日間ほど、意識が朦朧としていて、食事をとらないことが、しばしばありました。


入院してから10日後に、森中病院から泰代さんに電話がありました。
「竹本直江さんが熱を出しました。主治医が説明しますので、来てください」
泰代さんは、仕事先から急いで帰ってきました。

夜7時頃に、中井牧師が車を出して、泰代さんと森中病院に行きました。
直江さんは、酸素マスクを付けていて、点滴をしていました。
意識ははっきりしていて、中井牧師が話しかけると、ボソボソと答えましたが、よく聞き取れません。
中井牧師が頭に手を置いて祈ると、直江さんは目に涙を浮かべました。

主治医の説明が始まりました。
「竹本さんは、呼吸が浅くて、肺炎の可能性があるのですが、この病院には、レントゲンもMRIもCTも無いため、検査ができません。できるのは血液検査だけです。古いもんですから、この病院は。レントゲンは、とれるようにする予定ですが。
竹本さんには、今は、精神の薬の投与を止めています。竹本さんは予備能力が無いですから、肺炎が一番怖いんです。明日の朝、内科のある病院に行ってください」

 

中井牧師が、その医師に言いました。

「今晩中に、南部記念病院に救急で入れませんか。そこがだめでも、夜間救急をしている総合病院が市内にあるはずです」

 

医師は答えました。

「行っても、肺炎じゃなかったら、戻されてしまいますからね。竹本さんは元々、入院していたんですから、南部記念病院に明日の朝、戻りましょう」

 

結局、翌朝、中井牧師が車を出して、泰代さんと牧師夫人を乗せて、直江さんを迎えに行きました。
そして、直江さんは、南部記念病院の内科で検査を受けました。

 

検査の結果を、そこの医師が話しました。
「竹本さんは、やはり肺炎を起こしています。かなり強度の炎症です。原因は誤嚥です。このまま入院してください。2週間以上の入院となりそうです」

 

直江さんは、それから1週間、点滴をして、その後で、食事の練習をしました。
南部記念病院を退院後、直江さんは再び森中病院に移りました。

 

そして、しばらく後に、直江さんは、遠く離れた町にある、相原南病院(仮称)という別の精神科病院に移りました。

そこは開放病棟でしたが、私物を置くことが許されませんでした。
直江さんが愛していた教会に行くことも、できませんでした。

 その病院で1年と数か月を過ごした後、直江さんは静かに天に召されたのです。

 

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