生めよ。ふえよ。地を満たせ。地を従えよ。海の魚、空の鳥、地をはうすべての生き物を支配せよ。(創世記1:28)
土地は、あなたのゆえにのろわれてしまった。あなたは、一生、苦しんで食を得なければならない。(同3:17)
フクシマの原発事故以降、日本の人々は、文明社会のあり方について、より深刻に考えるようになりました。問題の本質は何か、キリスト教はこの問題にどのように関わっているのか、大雑把に考察してみます。
1.文明社会と環境破壊と奴隷労働
環境破壊は、人類の文明の歴史と共に古くからある問題です。それは環境考古学によって明らかにされています。
旧約聖書の舞台となっている古代オリエントにおいて栄えた諸々の帝国は、自然環境を改変することによって資源や食糧を獲得し、文明社会を築きました。しかし、その環境破壊の結果、森林や農地が荒廃し、流出した土砂によって都市が埋もれてしまい、国力が衰えて、滅びていきました。
古代の帝国には、少数の支配者と膨大な数の奴隷がいました。その文明の栄華は、奴隷の労働によって生み出され、支えられていたのです。
このような文明社会の構造は古くからあるものですが、近代科学の誕生と産業革命・技術革新によって人類は恐ろしく巨大な力を持ち、その構造を地球大にまで拡大しました。その過程は、帝国主義の歴史に重なっています。
2.ヨーロッパ列強の帝国主義と宣教活動
宣教師と商人と軍隊。順番が異なることはありますが、ヨーロッパ列強の帝国主義的な侵略・植民地支配において、これらはセットになっていました。
筆者は大学生のときに、ラス・カサス著 『インディアスの破壊についての簡潔な報告』などを読んで、この問題について考えさせられました。宣教師の多くは、純粋に信仰的な動機と目的によって、海外での宣教活動を行っていたのでしょう。彼らは、その宣教地において同胞の「キリスト者」が原住民を虐殺し、あるいは奴隷化しているのを見て、大変なショックを受けます。それを告発した宣教師もいました。

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しかし、大きな枠組として見るならば、宣教師たち自身も、ヨーロッパ列強の帝国主義的侵略の一部分に組み込まれていたのです。『ミッション』(The Mission)という映画は、その矛盾に悩む宣教師の姿を伝えています。
ーーキリスト教化したヨーロッパの文明こそ勝れたものである。だから我々は、 中南米やアフリカ、アジアなどの「未開」の人々に伝道して、彼らを教化し、文明化させることが必要であるーー。このような優越感と差別意識を、宣教師たちも持っていたのではないでしょうか。
3.日本のキリシタン禁教政策
日本では、ザビエルなどイエズス会の宣教師が最初に来て、その後、他の宣教師が来ました。彼らが西洋の文明の機器を多数持ち込んだので、織田信長をはじめ多くの大名たちが彼らを歓迎しました。
しかし、豊臣秀吉や徳川幕府は厳しいキリシタン禁教政策をとりました。徳川幕府は多くの宣教師やキリシタンを処刑し、すべての国民を寺院の檀家としました。その背景には、宣教師の後ろ盾となっているポルトガルやスペインの帝国主義的植民地支配があります。

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鎖国体制を敷いた日本が、アジアにおいて、欧米列強による植民地支配を受けなかった希有な国であったことは事実です。
江戸時代の日本は、欧米とは異なる、独特の文明社会を築きました。エコロジーの視点から評価すると、欧米の都市よりも江戸の方が勝れた都市でした。地域内で循環する持続可能な経済社会を、人口100万人を超える、世界で最大規模の大都市で実現していたのです。
4.日本の帝国主義と大東亜戦争
幕末に、アメリカの圧力によって、江戸幕府は開国に踏み切りました。そして、明治維新を経て、プロテスタントの宣教師が多数来日するようになり、宣教活動を行いました。日本は欧米の学問と技術と産業を輸入して、驚異的なスピードで近代化と富国強兵を成し遂げました。
日本の軍隊は日清戦争と日露戦争において勝利を収め、アジア大陸における地歩を固めました。そして満州事変と大東亜戦争(日中戦争、アジア太平洋戦争)において日本もまた、アジア太平洋の諸地域で帝国主義的な軍事行動と植民地支配を行いました。これは近代資本主義の必然的結果です。
ただし、日本は天皇を神格化し、国家神道をキリスト教に代わる国民統合の原理としました。大東亜戦争(日中戦争、アジア太平洋戦争)の時期には、ほとんどの宣教師が日本から閉め出されました。
大東亜戦争において、日本のキリスト教会が国に協力したことは、重大な問題です。この問題を、資本主義や帝国主義の視点から考えることも必要でしょう。そして、今とこれからの問題を、共同で研究するべきでしょう。
5.なぜ日本人はキリスト教徒になりにくいのか
戦後、アメリカは世界中のあらゆるところへ、文化輸出(文化侵略)を行ってきました。世界中どこに行ってもコカコーラの看板があり、コーラが飲める、といった具合です。
敗戦後、日本にも、欧米の宣教師とアメリカン・ライフスタイルと進駐軍が押し寄せてきました。キリスト教ブームが起こって、多くの教会が生まれ、人であふれました。けれども、それは間もなく沈静化しました。現在まで続いているのは、アメリカ型の大衆消費社会と沖縄の駐留米軍です。
なぜ日本人はキリスト教徒になりにくいのか。キリスト教が欧米の帝国主義と結びついて日本人に深く印象づけられてきたこと、これもその原因の一つでしょう。
しかし今や、「キリスト教は欧米の宗教」とは言えない情勢に変わりつつあります。かつて欧米列強の植民地とされたアフリカ、中南米、アジアにおいてキリスト教徒が急増しており、今やその人々がキリスト教の中心的な勢力を占めるようになりました。
日本でも、欧米の支配から独立した、正統的かつ日本的なキリスト教を育てていく必要があります。地域に根ざしつつ世界に開かれた教会を育てることが、その中心的課題です。
6.危機の時代
近代の世界システムの根本的な問題は、強大な軍事力を背景とした、「北」=豊かな諸国による「南」=貧しい諸国・諸地域の支配にあります。「北」の国家と企業と大衆が「王」「主」となって富をむさぼり、「南」の民衆が奴隷のごとく働かされて、使い捨てにされてきたのです(南北問題)。ただし、北の国々の内部にも著しい貧富の格差があり、貧しい国々の内部にも著しい貧富の格差があります。
しかし今や、貧しかった「南」の国々の一部が著しい経済成長を遂げて、新興国として台頭しています。その結果、鉱物資源や食糧、水などをめぐる利害関係は、より複雑化しており、争奪戦が激しくなっています。これに民族や宗教の問題などが絡んで、戦争にまで発展することもあります。
唯一の超大国であり、「世界の警察」を自認してきたアメリカの軍事的・政治的・経済的支配力は、相対的に衰えつつあります。多極化・多元化した世界において、「文明の衝突」が頻発すると言う学者もいます。戦争は大規模な環境破壊をもたらします。そして、大量の難民を生み出します。

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人類のむさぼりのために、地球の生態系は汚染され、破壊されています。世界人口の爆発的増加によって、生態系に加えられるストレスは、限界に達しようとしています。人類の営みはすべて、地球環境を基盤として成立しています。その基盤が崩壊したならば、人類社会も崩壊するでしょう。
7.パラダイム・シフト
これまでの文明のあり方を根本的に転換するパラダイム・シフトが今、必要です。問題の根本は、「この世界と我々人類は誰の所有物であるか」ということ、そして、「我々はそもそもどのような者であるか」ということです。「何であるか」が明確になれば、「何をすべきか」は自明でしょう。
この答を与えることができるのは神の言葉である聖書です。その聖書を通して人類に語る神の声を聴いて、伝えること。これこそキリスト者=教会の務めです。我々キリスト者=教会が真にキリスト者=教会として生きることこそ、日本を変え、世界を変えていく。私はそのように信じます。
「もはや、ユダヤ人もギリシヤ人もなく、奴隷も自由人もなく、男も女もない。あ
なたがたは皆、キリスト・イエスにあって一つだからである」(ガラテヤ3:28)
「わたしの兄弟であるこれらの最も小さい者のひとりにしたのは、すなわち、わたしにしたのである」(マタイ25:40)

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