1.右翼と左翼
地球は丸い。
右に直進する人と、真逆に左に直進する人は、反対側で再び出会うことができる。
これを政治になぞらえるなら、極右も極左も全体主義という性格において共通している。
右翼とは保守派、自由主義であり、極右は国粋主義、復古主義だ。
左翼とは革新派、社会主義であり、極左は共産主義、無政府主義だ。
出発点を民主主義とするならば、反対側は全体主義だ。
「右翼」「左翼」という分類法は、フランス革命の後に開かれた国民議会における座席の位置に由来している。
左翼・右翼 - Wikipedia
2.裸の王様
右翼・極右を「大政翼賛的」だと批判している左翼・極左も、実は「大政翼賛的」体質を持っている場合が多い。
自分たちの思想と行動を「正義」と信じて疑わず、指導者や団体に対する異論、反論、批判を認めない。
「王様は裸だ」と気づかないのか、気づいていても言えないのか?
そのような取り巻きと、「王様は裸だ」と教えてくれた少年、どちらを有り難い存在と思うか。
その判断によって「王様」の真価は問われるだろう。
民主主義における「王様」は民衆であるはずだが、指導者を「王様」としているのなら、それはもはや民主主義ではなくて全体主義である。
認知科学の知見によれば、人間はみな誤解と偏見と独善から自由ではありえない。
だから、それを認めて、異なる見方・考え方の者たちが互いに批判して、真実を明らかにしていく作業が必要なのだ。
3.健全な民主主義社会とは
もう30年近く前のことだが、私は大学に入ってすぐに国際政治学のゼミで、左右いろいろな立場の新聞、書籍、オピニオン誌などを比較して読むように、と指導された。
新聞では赤旗、毎日、朝日、読売、産経など。
オピニオン誌では前衛、世界、中央公論、文藝春秋、正論、諸君など。
極左・左翼・中道・右翼・極右という尺度は相対的であり、変わりやすいものだ。けれども、やはり尺度はあった方がよい。
第二次世界大戦後の世界では、米国を中心とする資本主義陣営と、ソ連を中心とする社会主義陣営が対立する冷戦が続いていた。しかし、壮大な社会主義の実験が失敗に終わり、20世紀の末に多くの社会主義国が資本主義に転換して、冷戦は終わった。
ただし、左翼の思想や運動、政党、団体が無くなったわけではない。その有用性も失われてはいない。
現代の社会は、企業を主体とする市場経済と、国家を主体とする福祉社会が共存する混合経済の体制となっているからである。
「自由主義」は聞こえが良いけれど、「誰にとっての自由か」という問題がある。それは「自由競争」の自由であり、弱肉強食、経済的格差を生み出すものであるからだ。
グローバリゼーション・新自由主義・貿易自由化・資本自由化は巨大な富を生む出すが、それによって失うものも小さくはない。
個人や私企業の自由と公共の福祉のバランスが重要であることは、言うまでもない。
左翼・左派・リベラル派・中道・保守派・右派・右翼、いろいろな角度から見て、いろいろな意見を自由に述べて、批判し合うことができる。それが健全な民主主義社会だろう。
実際にどうすることが良いか、政策の選択は、その時々の事情によって変わるものだ。それならば、手持ちのカードは多い方が良い。
偶像崇拝や無神論のように明らかにキリスト教信仰に反するものでなければ、キリスト教徒にもいろいろな政治的立場があって当然であるし、お互いの立場や考えを尊重し合うべきだろう。
4.新しい問題
冷戦後、世界の市場が統合されるグローバリゼーションの時代となり、新興国が急速に経済成長を遂げた。唯一の超大国となった米国の地位は相対的に小さくなり、米国はもはや「世界の警察」ではないと言っている。こうして、現代の世界は多極化・多元化が進んでいるのである。
人類は、地球環境問題という、国家の枠組みを超えた共通の課題に、協力して取り組まなければならない。しかし逆に、国家・民族・宗教・経済・領土等の問題で対立する勢力が、世界の各地で紛争を起こしており、それが戦争にまで発展している。
どうしたら、平和な世界を実現できるのだろうか。
単純に考えるならば、全世界の人々が豊かになって貧困から解放され、十分な教育を受けられるようになれば、戦争は少なくなり、平和になるだろう。戦争によって得るものよりも失うものの方が多くなり、一般市民がその損得に敏感になるからだ。
しかし、この地球は、70億を超えて100億にもなろうとする世界人口のすべてを、豊かに養うことができるのだろうか?
5.新しい尺度
実は、地球の環境を回復させて、世界中のマネーと資源と食糧を平等に分配し、生産ー流通ー消費ー廃棄における無駄をなくせば、それは可能である!
ただし、現在の経済システムでは、それは困難だ。
近代資本主義も社会主義も、マネー=GDP(国内総生産)という価値の尺度においては共通している。現行の尺度では、環境を汚染し破壊する経済活動も、GDPを押し上げるプラス要因となる。そして、それを修復する経済活動もプラスとして計算される。
病気になる人が多いと、医療機関や製薬会社などは儲かる。戦争が増えると、軍需産業が儲かる。
それゆえ、現代の世界は新しい尺度を必要としている。エコロジー(生物多様性など)や国民の幸福度といった、マネー=GDPとは異なる価値の尺度を計算に入れなければならない。
炭素税のような課税方式はすでに行われているが、国家を超えた管理体制が必要だ。
東アジアでも、これは緊急かつ極めて重要な課題である。