1.新改訳聖書の改訂
現在、新日本聖書刊行会と日本聖書協会が、それぞれ聖書翻訳事業を行っています。
新日本聖書刊行会は2016年度に『新改訳聖書』の改訂版を発行する予定です。
公式ウェブサイトを見ると、『新改訳聖書』の特長として次の5つが挙げられています。
1.聖書を『誤りなき神のみことば』と告白する福音主義の立場に立つ委員会訳であること。
2.ヘブル語およびギリシャ語本文の修正を避け、原典に忠実に翻訳していること。
3.パラフレーズ訳ではなく、リテラルな翻訳であるが、各書の文学類型にふさわしい日本語の文体を用いていること。
4.固有名詞など,従来の邦訳聖書の伝統を出来るだけ生かしていること。
5.特定の神学的立場に傾かないで,言語的に妥当であるかを尊重すること。
<クリスチャン新聞の記事>
2.礼拝で共に読むために
一方、日本聖書協会は、これまでの共同訳事業の延長として新しい翻訳を行っています。
公式ウェブサイトを見ると、翻訳方針は以下のようになっています。
「カトリックとプロテスタント教会の礼拝、礼典において教職者と信徒が、聖書を『信仰の書』として読むため」というのが、主な目標のようです。
参照:http://www.bible.or.jp/know/know31/e_05.html
できるだけ最新の校訂本を用いるのは、新改訳の改訂も聖書協会の新訳も同様です。
旧約ではBHQ、新約では、『ネストレ−アーラント』(Nestle-Aland)28版が最新です。
参照:http://ja.wikipedia.org/wiki/ビブリア・ヘブライカ・クインタ
参照:http://ja.wikipedia.org/wiki/ネストレ・アーラント

The Interlinear Nrsv-Niv Parallel New Testament in Greek and English
- 作者: Alfred Marshall
- 出版社/メーカー: Zondervan
- 発売日: 1994/03/04
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Greek text に忠実に訳されていると定評のあるRSVの改訂版が、NRSVです。
口語訳の新約聖書はGreek textから訳したと言いつつも、RSVにかなり依存した翻訳になっています。口語訳の方が新共同訳よりも原文に忠実だ、と言える部分は多いです。リテラルということです。
しかし、口語訳聖書の日本語は20世紀半ばのものであり、口語訳は文語訳聖書の訳をかなり引きずっています。現代の若者には古い表現が多くて、違和感があります。
アメリカ聖書協会のユージン・ナイダという聖書学者が提唱した「ダイナミック・イクイヴァレンス」(動的等価訳)という翻訳理論が、1940年代以降、世界各地の聖書翻訳に大きな影響を与えました。文章の意味が同じように伝わるのであれば、逐語的な正確さにこだわる必要はない、という翻訳方針です。
その方針に従って翻訳されたのが Today's English Version(TEV)、Good News Bibleであり、日本の共同訳新約聖書です。
その共同訳が「原文から離れて行き過ぎだ、礼拝での使用に問題がある」ということで、逐語訳的に改訂したのが新共同訳聖書です。
3.教会・正典・信条
「聖書信仰」を掲げる人たちは「原典」にこだわって、それに権威を求めます。しかし、それは失われており、残っているのは写本だけです。写本のテキストには、細かな違いがたくさんあります。
そもそも新約聖書の書簡などは回覧文書ですから、著者+筆記者の手を離れた後は、どんどん加除修正が為されたでしょう。
「聖書は教会の書である。聖書の正典を決定したのは教会である。その基準は正統的な信仰である。その信仰は信条において表明されている」
このような信条主義の方が、歴史的にはキリスト教の本流です。
すなわち、正典論的聖書論こそ正統的聖書論に他ならず、それは「教会の権威」を前提としており、「信条」を必然的に伴うものである、ということです。
その信条によって古代に、エホバの証人のキリスト論に近似するアリウス派が否定されました。ただし、アタナシオスが5回も追放されたほどアリウス派は優勢でした。しかし、聖書そのものが証しするキリスト論を、教会は長い苦闘の末に正しく受け取り、確定したのです(と我々「正統」を自認するキリスト者たちは信じています)。
東方教会と西方教会は分裂して、東方はギリシア語聖書を正典とし、西方教会はラテン語聖書を正典としました。聖霊論に違いはあれど、両者共にニカイア信条(NC)を告白しています。
では、プロテスタントはどうか?
ルターはヴルガータ(ラテン語聖書)とテクストゥス・レセプトゥス(エラスムスによるギリシア語聖書校訂本)を基にドイツ語新約聖書を訳出しました。
ルター派やカルヴァン派は古代信条を告白しています。聖書によって規範された規範である信条が、聖書の正しい解釈原理となるのです。
4.キリストを正しく信仰告白するために
ちなみに旧新約66巻がリストアップされた信条は、ウエストミンスター信仰告白が最初です。ルターやカルヴァンが、現代の福音派や根本主義者のような正典論や「聖書信仰」(ビブリシズム)を持っていたとは考えられません。とりわけルターにとって聖書は、正しくキリストを証しする、そして人々に救いを与えるから、正典なのです。
本文批評だけでは翻訳を決定できないケースが、いくらでもあります。聖書翻訳において中立的な無重力状態などありえません。
「私(たち)こそ正しい聖書解釈者であり、正しい聖書翻訳者である」と新世界訳聖書の翻訳者たち(エホバの証人)も主張するんじゃないでしょうか。
さて、ニカイア信条やアタナシオス信条を告白しない現代の「福音派」や根本主義者は、彼らをどのように論破するのでしょうか?