1.朝鮮戦争再開の危機とロシアの北方領土固定化
朝鮮戦争再開の危機は、北朝鮮と韓国の協議によって食い止められました。中国をはじめ諸外国がかけたブレーキも効いたようです。
今回、日本海と黄海にある北朝鮮軍の潜水艦基地から出た潜水艦は普段の10倍以上、北朝鮮の潜水艦約70隻の約7割に達していました。軍事境界線に近い砲兵戦力も2倍以上に増加。ノドンを搭載したミサイル発射車両が西部の平安北道で展開され、東部の元山ではスカッドを搭載したミサイル発射車両が展開されました。
火事場泥棒ではないですが、このようなタイミングをねらって、日本周辺で特別な動きを見せた国があることにも注意する必要があります。ロシアのメドベージェフ首相は、タイミングよく択捉島を訪問して、北方四島がロシア領であるかのごとくアピールしたのです。
2.アメリカのリバランス政策にどのように対応するか
中国やロシアが経済成長に伴って、鉱物資源や工業原料、食糧、市場を求めて、太平洋や世界の各地に勢力を拡大していくのは、「資本主義」の必然です。
地球温暖化によって北極海が重要な航路になりました。欧州ーロシアー中国の貿易は拡大していくでしょう。それに伴って、ロシア軍や中国軍が海洋進出の動きを強めるのは、必然です。
米国は「リバランス」の名のもとに、アジア・太平洋地域における軍事的プレゼンスを強化しようとしています。
しかし、財政赤字・累積債務問題を解決するために、アメリカ連邦議会は軍事費に枠をはめて制限しました。また、アメリカ国民は、中東や中央アジアで長年続く戦争や軍事行動に疲労を感じ、これ以上アメリカ軍人の被害者を出すことに強い抵抗を感じています。
シェール革命によって、アメリカはエネルギーの自給能力が高まったため、大きなリスクを負ってまで中東での軍事介入を続ける意義があるのか、という計算もあります。中東に8割以上も石油を依存しているのは日本だけです。
こうした事情により、米国は日本や東南アジアの諸国に自衛の努力を求めているのです。自国だけで無理なら、NATO(北大西洋条約機構)のように集団的自衛権を使え、となるでしょう。
米軍がフィリピンから撤退したら、さっそく中国は南シナ海全体にどんどん勢力圏を広げました。そのため米軍はフィリピンに再び駐留することになりました。沖縄で米軍基地反対運動が激しいから、米軍はどんどん撤退しようということになったら、どうなるでしょうか?
日本は自衛力を高めて、東アジアの情勢の変化に対応しなければなりません。これはすぐにできる話ではありません。
3.なぜ集団的自衛権の行使が必要なのか
中国やロシアが拒否権を保持する限り、国連による集団的安全保障には期待できません。自分たちの国・地域は自分たちで守る。日本もこの基本に帰るべきではないでしょうか。
集団的自衛権とは、同盟国が攻撃を受けた時に、共に戦って防衛を図るというものです。しかし、必ず同盟国を助けなければならないというものでもありません。実際に、自分の国に危害が及ぶ恐れが無い場合には、参戦しないケースもあります。
今、政府与党が進めようとしている平和安全法制は、まだ国民に十分に理解されておらず、安保法案は自衛隊が米軍に追随して世界の各地で戦争を行うための「戦争法案」だ、という批判が根強くあります。現実には、今の自衛隊にそのような能力はありませんし、日本の法制はそれができるようにはなっていません。しかし、将来にわたって、そのようなことが無いように、この安保法案を通す場合でも、「歯止め」を入れて修正する必要があるでしょう。
時間的に間に合うのなら、今回は安保法案を廃案にして、来年夏の参議院選挙で憲法改正案と併せて、国民の信を問うのがべストでしょう。第九条に自衛隊と専守防衛と国際貢献について明記して、日本の立場、国是を世界の国々に理解してもらうのです。
しかし残念ながら、北朝鮮も中国もロシアも、それまで待ってはくれないようです。東アジアの情勢は厳しさを増しています。
近年、日本の国防に関して問題になっている相手国は、北朝鮮、中国、ロシアです。
中国とロシアは、日本と全面戦争をするとは思えませんが、日本の領海・領空を日常的に侵犯しています。
朝鮮戦争の再開や台湾有事が想定されています。
先日、北朝鮮は弾道ミサイルの発射準備をしていましたし、潜水艦も7割くらい出動させたようです。今回は無事収まりましたが、戦争再開となったら、米軍の出動を防ぐために、日本にある米軍基地を攻撃するでしょう。今、米国はその対策を練り直しています。
台湾有事においては、沖縄を完全に制圧すると、中国は公表しています。
なぜ集団的自衛権の限定的行使が必要になるかというと、朝鮮戦争の再開や台湾有事において、自衛隊が米軍の後方支援をするためでしょう。
4.中国の膨張にどのように対応するか
中国は今や、日本の1.5倍のGDPを誇る経済大国になりました。「世界の工場」となった中国の製品は、安価なだけでなく、性能や品質も向上しています。これは日常的に中国製品を数多使用している我々が実感するところです。
中国経済はちょうど今、バブルが弾けて落ち込みつつあります。しかし中国には、またのし上がって成長する力があります。14億とも言われる人口の多数を低所得者層が占めているため、ある程度の教育レベルに達した低賃金の労働者を豊富に供給できるからです。
中国は、国防費に国家予算の一割以上を使って、急激に軍備拡張を行っています。これに一国で対抗できるのは米国だけですが、財政赤字・累積債務問題に苦しむ日本や米国は、今は優勢であっても、今後は劣勢になる可能性が高いと予測されています。
中国は、「第一列島線」「第二列島線」を勝手に設定して、南シナ海と東シナ海、台湾、沖縄を支配する、と明示しています。「第一列島線」を見ればわかるように、中国は東南アジアと東アジアを連続的に見ています。ですから、日米韓、ASEAN諸国、オーストラリアが協力して、中国に対抗できる体制を構築しなければなりません。インドもこれに加わるでしょう。
新しい東西冷戦時代は、すでに始まっているのです。
5.文明の衝突
これからの世界は、20世紀後半の東西冷戦時代よりも不安定な構造になるでしょう。それはいくつかの要因があります。
一つは、一方の主役がソ連から中国に変わったことです。
ソ連は社会主義国とは言っても、ロシア正教が根強く生き残っており、基本的な価値観において、米ソは理解し合える部分が多くありました。ロシアのプーチン大統領はKGBの幹部でしたが、熱心なロシア正教徒です。
ところが、中国共産党は、独特の思想的実践的発展を遂げました。今の中国が、特権階級や経済的格差、差別、搾取を廃絶した平等社会だと認める人は、皆無でしょう。中国は、共産党という特権階級が支配する東洋的専制国家になったのです。共産党員に非ずば人に非ず。実は、中国の歴史に出現した諸王朝はことごとく、このような不公正な官僚支配によって堕落し、滅亡しました。
ハンチントンが提起した「文明の衝突」という問題が、やはり21世紀の世界の主要な課題と言えそうです。www.amazon.co.jp

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6.多元化=多極化する世界
20世紀末において多くの人々は、唯一の超大国アメリカの価値観や文明が世界を支配しつつある、と考えました。日本のナントカ党も「アメリカ帝国主義」をやたら喧伝していますが。
しかし同時期に、21世紀の世界は多元化に向かう、と予測した学者が大勢いました。世界で最も支持されている経営学者ピーター・ドラッカーは、ソ連が消滅した頃すでに、現代資本主義の終焉を予言しています。「20世紀は社会主義の壮大な実験の世紀だったが、それは失敗に終わった。やはり資本主義こそ、人間の本性に根ざした普遍的な原理であり、あるべき社会なのだ」という風説を否定したのです。
社会主義国家であった中国は、市場原理を導入して改革開放を進め、グローバリゼーションの潮流に乗って「世界の工場」となりました。一方で、資本主義国である米国や日本は、国家財政の支援によって私企業の救済を行いました。これらは、社会主義や資本主義の根本原理に反する矛盾です。今や近代のイデオロギーでは説明できない、プラグマティズムが支配する時代になったのです。そうすると、露骨に拝金主義が横行し、軍事力に頼る傾向が広がります。再び「富国強兵」です。
中国では、拝金主義の傾向があまりにひどくなり、社会の規律を保つことが難しくなりました。そのため、公教育で再び「儒教」を教えるようになりました。
ロシアのプーチン大統領は「力」による危機打開を志向しています。2014年のウクライナ騒乱において、プーチンは核兵器の使用準備を命じていました。ロシアが核超大国であることに変わりはありません。
BRICs=ブラジル、ロシア、インド、中国といった新興国が世界経済に占める位置は大きく広がっています。他にも、東南アジアやアフリカなどで経済が急成長している国々があります。世界の勢力図は大きく変わりつつあり、「リバランス」は必然です。
7.イスラム世界の大変動
この多元化する世界において特に重要な意味をもっているのが、イスラム勢力の拡大です。大雑把に言って21世紀初頭には、世界人口の3分の1はキリスト教徒であり、2割はイスラム教徒でした。しかし、今世界ではイスラム教徒が急速に増加しているようです。
「イスラム国」(IS:Isiamic State)は、世界中のイスラム教国を一つにまとめる壮大な構想を掲げて、ヨーロッパをはじめ世界中のイスラム教徒から支持を集めつつあります。これはイラクだけでなく、サウジアラビアやイラン、エジプトなど既存のイスラム教国にも大きな脅威となっています。
8.ニッポン丸の舵取り
(1) 欧米豪日韓などが構成する第一極
(2) 中国を中心とする第二極
(3) イスラム教の国々が占める第三極
(4) その他諸々の勢力
日本は、これらのいずれとも政治的・経済的・軍事的に大きく関係しています。日本はこの先、どのように自らを位置づけ、どのような選択をしていけばよいのでしょうか。我々日本のキリスト者はどうでしょう。
この嵐に揺れる海を行くニッポン丸の舵取りをする船長のために、祈りましょう!
また、戦争と戦争のうわさとを聞くであろう。注意していなさい、あわててはいけない。それは起らねばならないが、まだ終りではない。民は民に、国は国に敵対して立ち上がるであろう。またあちこちに、ききんが起り、また地震があるであろう。
そのとき、多くの人がつまずき、また互に裏切り、憎み合うであろう。また多くのにせ預言者が起って、多くの人を惑わすであろう。また不法がはびこるので、多くの人の愛が冷えるであろう。しかし、最後まで耐え忍ぶ者は救われる。そしてこの御国の福音は、すべての民に対してあかしをするために、全世界に宣べ伝えられるであろう。そしてそれから最後が来るのである。
(マタイ24:6-7,10-14)
<参考>