いきなりですが、質問させていただきます。
(1) カトリック教会とプロテスタント教会の違いを、ご存知でしょうか?
(2) なぜプロテスタントは、カトリック教会から分離独立したのでしょうか?
(3)プロテスタントで洗礼を受けていても、カトリック教会では聖餐(パン)にあずかることができません。なぜでしょう?
ローマ・カトリック教会が正統的な信仰から逸脱したことについて、16世紀にマルティン・ルターをはじめとする宗教改革者たちはプロテスト(抗議)しました。その「逸脱」は、いくつもあります。
1.無原罪の聖母マリア
まず、カトリック教会には聖母マリア崇拝、聖人崇拝、聖遺物崇拝があります。
カトリック教会には、聖母マリアや諸聖人に呼びかける祈祷文があります。これは、彼らに神への取りなしを願うものです。けれど、プロテスタントは、これらも偶像崇拝と考えます。
特に、「無原罪の聖母マリア」は、限りなく女神に近いように思われます。それは、キリスト教が地中海世界に布教された過程において、各地の地母神信仰に結び付けられた、あるいはそれらと代替されたものと思われます。

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2.煉獄と贖宥
ローマ・カトリック教会は、罪の赦しのためには三つのことが必要だ、と教えています。
(1) 痛悔:犯した罪を悔いて反省する
(2) 告解:司祭に罪を告白する
(3) 償罪:その罪に見合った償いをする
(参照)http://tomoshibi.or.jp/catechism/catechism-26.html
そして、多くの人は死んだ後、すぐに天国に入れず、煉獄で苦しい罰を受けて魂が浄化される必要がある、と教えています。清めの火は、それを象徴しているとされます。
ただしローマ・カトリック教会は、キリストや聖母マリア、諸聖人の功徳が神にささげられることによって、煉獄での罰が免じられることも認めています。これが「贖宥」です。今日では「免償」と言います。
1517年に、教皇レオ10世は、サン・ピエトロ大聖堂の改築の費用を集めるために、贖宥状(免罪符)の購入者に全免償を与える、という布告を出しました。
贖宥状の販売
(出典)http://www.vivonet.co.jp/rekisi/a13_protestant/protestant.html
(出典)http://www.cnn.co.jp/m/business/35032451.html
3.95か条の提題
これに対して異議申し立てをしたのが、マルティン・ルターです。1517年10月31日に、ルターはドイツのヴィッテンベルク城教会の門に「95か条の提題」を掲示したと言われます。「95か条」の正式名は「贖宥状の意義と効果に関する見解」です。ヴィッテンベルク城教会は聖遺物の宝庫として有名でした。
「95か条の提題」(贖宥状の意義と効果に関する見解)
第27条 金銭が献金箱の中へ投げ入れられて、チャリンと鳴るやいなや、魂は(煉獄から)飛び出すと言う人たちは、人間〔の教え〕を説教している。
第36条 真に痛悔したキリスト教徒はだれでも、贖宥状がなくとも、その人自身にふさわしい、罰と罪からの完全な赦しを得ている。
第37条 真のキリスト教徒はだれでも、生きている者であれ死んでいる者であれ、贖宥状がなくとも、彼自身への神からの賜物として、キリストと教会のすべての財宝にあずかっている。
(参照)http://muso.to/h-ruta-95.htm
この文書が瞬く間にドイツ各地、さらにヨーロッパ各地に広まって、プロテスタント宗教改革の口火を切ることとなったのです。

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4.聖書のみ、恵みのみ、信仰のみ
ローマ・カトリック教会の煉獄と贖宥の教えは、旧約外典・偽典を根拠としています。プロテスタントは、ユダヤ教が正典とする39巻のみを、旧約正典としています。プロテスタントが教理の基準とするのは、旧約39巻、新約27巻、計66巻の聖書正典のみです。
聖書正典の教えに従って、プロテスタントは、イエス・キリストにあって与えられた神の恵みのみが、人の罪を完全に贖う、と信じています。罪を赦され、神と和解して、永遠の命が与えられ、天国の民に加えられるのは、信仰を通してのみです。
「聖書のみ」「恵みのみ」「信仰のみ」。この三つの「のみ」は、「キリストのみ」で救われるという 、シンプルで誰にでも可能な救いの道を表しています。
(参照)ルカ24:27,44、ヨハネ5:39、エペソ2:8

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5.第二正典と聖伝
ルターが「95か条」で抗議した贖宥状(免罪符)は廃止されましたが、贖宥(免償)の教えは今もあります。すなわち、「人はイエス・キリストの贖罪を信じるだけでは救われず、信者も死んだら煉獄で苦罰を受ける。だから罪の償いをしなければ救われない」とカトリック教会は教えています。これは福音に反する教えです(エペソ2:8)。
なぜ、このような逸脱が起こるのでしょうか。
その一つの理由は、彼らがアポクリファ(旧約外典)を第二正典として、教理の基準に用いているからです。ユダヤ教とプロテスタントは、それを聖書とは認めていません。

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もう一つは、カトリック教会が聖伝(使徒伝承、信条、教理、典礼等の諸伝承)に聖書と同等の権威を認めているからです。
その結果、カトリック教会では、最も重視しているはずのミサ(聖餐)でさえ、キリストの教え・聖書の教え通りに行っていません。
ローマ・カトリック教会は、ルターをはじめプロテスタントを異端として、破門しました。しかし、プロテスタントは、ーー自分たちこそ、古代信条に表明された正統的(オーソドックス)な信仰を守る公同(カトリック)の教会であるーーと信じています。
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6.エキュメニカル運動
さて、日本福音ルーテル教会は、1984年からローマ・カトリック教会との間で正式な対話を続けて、1989年に洗礼の相互承認に至りました。
1999年にローマ・カトリック教会とルーテル世界連盟は『義認の教理に関する共同宣言』に正式調印しました。
現代ではこうしたエキュメニカル運動が広がりつつあります。しかし、上に記したプロテスタントとローマ・カトリック教会の間にある根本的な問題は解決していません。
ですから、まだプロテスタントのほとんどの教派・教団は、ローマ・カトリック教会との間で洗礼の相互承認や陪餐の相互承認に至っておりません。
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7.カトリック教会の優れたところ
ローマ・カトリック教会には優れたところが、たくさんあります。それは筆者も認めます。世界の歴史において、ローマのヴァチカンは中心地の一つであった、と言えるでしょう。功罪共に巨大なものです。西洋の美術も音楽も文学も、カトリック教会に依るところが大です。

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(出典)http://whc.unesco.org/pg.cfm?cid=31&l=en&id_site=91&gallery=1&&index=61
筆者は、ローマ・カトリック教会の礼拝に興味があり、ミサを見学することもあります。神戸バイブル・ハウスでは何年も、カトリック教会の方々とご一緒に活動しています。フランシスコ会訳聖書は非常に優れていて、愛読しています。フィリピン・ネグロス島でキリスト教基礎共同体(BCC:Basic Christian Community)、いわゆる解放の神学の活動を見学したこともあります。
プロテスタントはローマ・カトリック教会から分離独立したわけですから、その前史を学ぶことも重要です。

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8.異端の運動
しかし、信仰の問題は気をつけないと、異端になってしまう危険があると思うのです。
特に、最近は聖母マリアが出現して、いろいろなことを預言した、と大勢のカトリック信者が信じています。ファティマでの預言はローマ教皇が公式に認めて、出版までされています。
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異端の根本問題は、聖書以外のものを神の言葉として、あるいは聖書と同等に権威あるものとして、信じることです。統一協会、モルモン教、エホバの証人等、皆そうです。
ローマ・カトリック教会の神父やシスター、信徒などが皆、異端だと言っているのではありません。しかし、危うい状況ではないでしょうか。プロテスタントにも同様の人たちがいますけれど。
2017年10月31日には、ルターが「95か条の提題」を発表してから500年になります。この記念される節目を前に、もう一度、プロテスタントの原点=アイデンティティーを確認して、積極的な宣教と堅固な教会形成を進めていくことを願います。
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