KANAISM BLOG ー真っ直ぐに行こうー

聖書のメッセージやキリスト教の論説、社会評論などを書いています。

子どもを産み、育てることの重要性を説くことが、悪いのか

「二人以上出産」発言校長退職へ について武田邦彦

 

大阪市立茨田北(まったきた)中学校の全校集会で「女性にとって最も大切なのは子どもを2人以上産むこと。仕事でキャリアを積む以上の価値がある」などと発言した寺井寿男(てらい ひさお)校長(61)が、市教育委員会に今春からの再任用の辞退を申し出ていたことが市教委関係者への取材でわかった。市教委は受け入れる方針とみられ、寺井校長は3月末で退職する>。

digital.asahi.com

 

その全校集会が行われたのは2月29日ですが、この校長の発言がマスコミやネットで問題になってすぐに、私は発言要旨全文をネットで探して、読みました。すると、この校長の訓話は、社会的には正論であって、決してバッシングを受けるようなものではないことが、わかりました。マスコミは、ほんの一部分を強調して伝えていますが、全体を正しく伝えるべきです。

 

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大阪市立茨田北中学校の全校集会における寺井寿男校長の発言要旨

 

今から日本の将来にとって、とても大事な話をします。特に女子の人は、まず顔を上げて良く聴いてください。女性にとって最も大切なことは、こどもを二人以上生むことです。これは仕事でキャリアを積むこと以上に価値があります。

 

なぜなら、こどもが生まれなくなると、日本の国がなくなってしまうからです。しかも、女性しか、こどもを産むことができません。男性には不可能なことです。

 

「女性が、こどもを二人以上産み、育て上げると、無料で国立大学の望む学部を能力に応じて入学し、卒業できる権利を与えたら良い」と言った人がいますが、私も賛成です。子育てのあと、大学で学び医師や弁護士、学校の先生、看護師などの専門職に就けば良いのです。子育ては、それ程価値のあることなのです。

 

もし、体の具合で、こどもに恵まれない人、結婚しない人も、親に恵まれないこどもを里親になって育てることはできます。

 

次に男子の人も特に良く聴いてください。子育ては、必ず夫婦で助け合いながらするものです。女性だけの仕事ではありません。

 

人として育ててもらった以上、何らかの形で子育てをすることが、親に対する恩返しです。

 

子育てをしたら、それで終わりではありません。その後、勉強をいつでも再開できるよう、中学生の間にしっかり勉強しておくことです。少子化を防ぐことは、日本の未来を左右します。

 

やっぱり結論は、「今しっかり勉強しなさい」ということになります。以上です。

 

www.huffingtonpost.jp

 

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マスコミやネットでは、この校長の発言に対して「女性差別だ」などと非難の声が浴びせかけられています。キリスト者・牧師にも、そのような人たちがいます。しかし、それは小生には理解しがたい言動です。

 

聖書は明らかに、子どもを産み育てることを、人間社会の根本として重視しています。

 

 神は彼らを祝福して言われた、「生めよ、ふえよ、地に満ちよ」(創世記1:28)

 

「わたしはあなたを大いなる国民とし、あなたを祝福し、あなたの名を大きくしよう」(創世記12:2)

 

とりわけアブラハムに代表される契約の民においては、嗣業の地あるいは聖所(幕屋・神殿)での役割を、子孫に受け継いで絶やさないことが、絶対的に重要でした。イスラエル民族・ユダヤ人は、系図を大切に残して、後代に伝えました。

 

上に引用した文章は「要旨」ですから、この校長先生の意図や思想にはよくわからない、判断できない部分もあります。その場のビデオを見ないで、憶測で裏の意図をあれこれ言うのは、いかがなものでしょう。この校長先生は、この一度だけではなくて、年間を通じて、生徒の皆さんにお話をしておられます。

 

今回の一件は、この中学校の生徒の親が匿名で大阪市教育委員会に電話をしたことから、問題となり、マスコミがこれを取り上げたことから、事が大きくなってしまったようです。学校の中で生徒と親と教師が話し合えば、済む話ではないでしょうか。退職までして責任を取らなければならない問題でしょうか。

 

教員の方々は、多大な労力と気力と時間をかけて、人格者たる生徒に向き合い、彼らを育てているのです。それを、外部の者が、一点だけを切り取って、過剰な解釈・憶測を交えて攻撃する。そのようなマスコミや一般市民の介入が、果たして「教育」に関して良い効果を持つのか? むしろ、これをきっかけに、全国の校長先生や教職員の方々は、当たり障りのない狭い狭い領域に話を限定してしまうのではないか?

 

「縮み志向」の日本人を生み出してしまいそうです。私は、このような外部者の教育現場への介入こそ、重大な問題につながる、と危惧します。

 

公教育への政治的介入に反対するのであれば、公教育へのマスコミの介入にも反対すべきではないでしょうか。現代社会ではマスコミの影響力は、時に暴力的な人権侵害にさえなります。しかも、マスコミは、責任を問われない場合が多いのです。

 

インターネットと、スマホなどの携帯情報端末、そしてSNSが発達して、今は誰でも情報発信者・批評家になれます。デマゴーグが人々を動かすこともあるでしょう。

 

そのIT化した一般市民=大衆の情報発信とマスメディアがリンクすると、社会の片隅で起こった小さな出来事が、社会的に大きな影響力を生み出し、状況を大きく変えてしまうこともあるでしょう。

 

それは革新的でクリエイティブなポテンシャルともなり得ますが、これまで培ってきたアナログな大切なものが壊されてしまう危険性も、多分にあるでしょう。

 

例えば、今回のように教育現場ならば、教師と生徒と保護者の信頼関係の破綻です。情報を外部に流した人も、想定をはるかに超えた事態に発展して、困惑するでしょう。

 

市民社会のIT化は、学校や教会のような「部分社会」と「全体社会」の関係を変えつつあります。今、我々は様々な経験をしながら、痛みを感じつつ、新しいルールやマナーを作るべき段階にあるのでしょう。

 

さて、実際問題として、少子化は日本社会に非常な危機をもたらします。近年いたるところで「地方消滅」が話題になりますが、国家財政だって危ないのです。

 

国や自治体の危機は、国民生活の危機でもあります。少子化・超高齢化によって多大な負担を負うことになるのは、その話を聴いた中学生たちをはじめ若者たちです。彼らに対して、この校長は正直にストレートに解決策の正論を語ったのです。

 

人口を維持するのに必要な合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子どもの数)は、2.08とされています。

 

http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/jisedai/manual/dl/01.pdf

 

個々人には、また各家庭には、産めない事情もあるでしょうし、産まない自由もあります。それならば、なおさら、次世代を育てるために、共同社会として、また、その成員たる社会人として、どのようなことができるのか、どのようなことをすべきなのか、真剣に考えて取り組まなければなりません。

 

この校長を非難して正義漢のつもりになっている人たちに、次の三つのことをお尋ねします。

 

①あなたは、少子化が今後、日本社会にどのような問題を引き起こすと、思いますか? 特に、今の中学生が30歳代になる15~28年後(2031~2044年)の状況を、どのように想定しているか、お答えください。

 

②あなたは、日本の少子化問題をどのように解決したらよいと、思いますか? 具体的な方法をお答えください。

 

③あなたが中学生に対して少子化問題について話す機会があるとしたら、具体的にどのように教えますか?

 

小生は4人の子に恵まれ、感謝でありますが、この子たちが結婚や子育てに肯定的積極的に取り組んでくれるかどうか。親としては、良い模範・良い教育を与えたとは言えない自分であります。もちろん、独身で生きることにも、聖書は肯定的な意味を与えているのですが。

 

この校長先生は、本来なら親が子に教えるべきことを、何度も回を重ねて教えておられたようです。言いづらいことを、きっちりと教えておられて、親としては、ありがたいことです。

 

今の大卒者は、収入がある程度高くて安定した職を得れば良いのですが、非正規で不安定な職業だと、奨学金を返すのが大変で、結婚も考えられない、というケースが多いようです。大学の学費は、国の補助などによって、大幅に下げて欲しいものです。資産家や優良企業の皆様は、ぜひ奨学金などによって、学生を支援してください!

 

戦後日本は、昭和憲法の人権思想が浸透して、基本的には良かったのですが、公共性を欠いた、行き過ぎた/偏りすぎた個人主義も育ってしまったと思います。

 

しかし、今でもこんなにしっかりとした教育をする校長先生がいるんだなと、ちょっと希望を感じた次第です。