[注]この記事の本文は、日本イエス・キリスト教団 信徒局 教会教育室 が発行している『聖書教育教案誌 牧羊者』の「教師養成講座」に連載する予定の原稿です。
序論 再生へのリビジョン
2016年9月27日から30日まで神戸で第6回日本伝道会議が開催され、約2300名の牧師・宣教師・宣教従事者・信徒が集まりました。1905(明治38)年に日本伝道隊本部が神戸に設置されて以来、この地は私たちの群れの中心地となっています。
今回お迎えした講師は、英国のオールネーションズ・クリスチャン・カレッジで長年教鞭をとり、校長を務めたクリストファー・ライト博士でした。その神学校は、バックストン家の広大な敷地に建てられたものであり、欧州最大の宣教師訓練学校となっています。
今回の伝道会議のテーマは「再生へのリビジョン~福音・世界・可能性~」というものでした。
ライト博士は最初の講演で列王記下6章8~23節を開き、――危機的な状況にあるとき、私たちの霊的な目が開かれて神の臨在と力を見ること、そして私たちが神の民として今ここにいる理由を悟ることが大切だ――と語りました。
「恐れることはない。 われわれと共にいる者は
彼らと共にいる者よりも多いのだから」
「主よ、どうぞ、彼らの目を開いて
見させてください」
「危機」は「危険」であると共に「機会」でもある、と言われます。この論文では、日本イエス・キリスト教団が直面している危機を直視しつつ、神が私たちに示しておられる伝道の「ビジョン」を再確認する一助となることを願って、論考を進めます。
【ポイント】
①日本社会に起こっている変化について、人口問題を中心として教会学校に関わる重要な問題を列挙します。
②日本伝道の障壁となっているものを明らかにします。
③障壁を打ち破る伝道のアプローチを提案します。
第1節 教会学校の現状
今年8月に行った兵庫教区ティーンズ・バイブル・キャンプに参加した生徒は25人でした。兵庫教区にある28教会のうち生徒がキャンプに参加したのは11の教会だけでした。諸々の事情があるにせよ、かつてはほとんどの教会から、100人以上の中高生が参加していましたので、隔世の感は否めません。
私たちの教団では、バイブルキャンプで救いの確信が与えられた人、受洗を決心した人、献身の志を与えられた人が大変多いのです。筆者も生徒として、あるいは教師として北海道、関東、大阪、兵庫でバイブルキャンプに参加し、特別な恵みをいただきました。キャンプミーティングはホーリネス運動で重視されてきた活動です。ティーンズ・バイブル・キャンプの衰退は、教団・教区の将来に関わる重要な問題である、と筆者は考えます。
日本イエス・キリスト教団の「2015年教会教勢一覧」のデータを分析してみます。
幼小科生徒在籍数・教会数 中高科生徒在籍数・教会数
10人以上 44 10人以上 12
5人以上9人以下 27 5人以上9人以下 21
1人以上4人以下 32 1人以上4人以下 51
ゼロ・幼小科無し 25 ゼロ・中高科無し 44
合計 128 合計 128
日本のプロテスタントで最大の教団である日本基督教団では戦後間もない頃には、一教会あたり100人近くのCS出席者がありました。ところが、2014年度には一教会あたり8人に減少しています。現在、日本基督教団の1643教会のうち572教会、34.8%の教会がCS出席者ゼロまたはCS無しとなっています(『データブック 日本宣教のこれからが見えてくる――キリスト教の30年後を読む』いのちのことば社。以下『データブック』と略す。43頁参照)。私たち日本イエス・キリスト教団の教会学校活動も、それに近づいたのかもしれません。
データブック日本宣教のこれからが見えてくる キリスト教の30年後を読む 【いのちのことば社のオンライン通信販売サイト ゴスペルショップ(Gospel Shop)インターネット店】
近年、日本のプロテスタント教会全体のデータを見ると、約半数の教会は受洗者が無くて、残りの半数の教会で、一教会あたり約2人の受洗者を生み出しているという状況です(『データブック』52頁参照)。日本イエス・キリスト教団の「2015年教勢一覧」によると、128教会のうち受洗者がいたのは67教会で(52.3%)、受洗者数の合計は164人でした。厳しい状況です。
少子高齢化の問題は、日本のプロテスタント教会においても深刻になっています。日本基督教団では2014年の全信徒の平均年齢が62.9歳、70歳以上の割合が40%以上になっています(『データブック』52頁参照)。
子供が減ったことだけでなく、牧師やCS教師の老齢化と後継者不足も、重大な問題です。
第2節 著しい少子化=人口減少の時代
日本の総人口は2011年から減少局面に入っています。国立社会保障・人口問題研究所によると、
2010年 1億2806万人
2030年 1億1662万人
2048年 9913万人
2060年 8674万人
このように推計が出されています。
2010年から2060年までの50年間で4132万人、比率にして32.3%の減少が見込まれています
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/15/dl/1-01.pdf
この人口減少の直接的な原因は少子化です。
①わが国の年間の出生数は、第一次ベビーブーム期(1947~1949年)には約270万人でした。いわゆる「団塊の世代」です。そして「団塊ジュニア」と呼ばれる第二次ベビーブーム期(1971~1974年)の出生数は、約200万人でした。しかし1975年以降、出生数は減り続け、2015年は100万8000人となっています(厚生労働省の人口動態統計の年間推計)。
②合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の平均数)は、第一次ベビーブームのときには4.32でしたが、2005年には1.26まで下がりました。この著しい少子化の主な原因は、未婚化、非婚化、晩婚化、晩産化です。
少子化には経済的な事情が大きく影響しています。
①非正規雇用労働者は1994年以降、増加傾向にあります。2015年の平均値で、役員を除く雇用者全体の37.5%を占めています。
②等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人数の平方根で割って算出)の中央値の半分の額を「貧困線」と言い、これに満たない世帯員の割合を「相対的貧困率」と言います。厚生労働省が2012年に行った国民生活基礎調査によると、貧困線は122万円、相対的貧困率は16.1%となっています。特に、世帯主が30歳未満の世帯では相対的貧困率が27.8%と高い値を示しています。
③貧困線以下で暮らす17歳以下の子供の割合を「子供の相対的貧困率」と言います。1990年代半ばからこれが上昇傾向にあり、2012年には16.3%になっています。ひとり親家庭の相対的貧困率は54.6%と非常に高くなっています。
④2014年の婚姻件数は63万5156件、離婚件数は22万6215件となっており、結婚した夫婦の3組に1組は離婚しています。
このような状況で、若い女性は安心して子供を産み、育てることができるでしょうか。政府には、最低賃金を引き上げる、正規雇用を増やす、同一労働同一賃金を実現する、保育所を増やす――といった政策の推進が求められていますが、教会学校も、地域に生活する若い親子を支援するためにできることが、いろいろあるでしょう。
労働経済白書〈平成17年版〉人口減少社会における労働政策の課題
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第3節 若者の地方圏から大都市圏への移動
人口の東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)への一極集中と「地方消滅」が国家レベルの大問題となっています。
①地方圏から進学や就職の機会に恵まれている大都市圏へと若者が移動するのは、戦後ずっと続いている現象です。国勢調査によると、東京圏の人口は2000年から2005年までの5年間で約100万人増加しました。2010年から2015年までの5年間では51万人増加しています。総面積で全国の3.6%しかない東京圏に、今や総人口の4分の1を超える3500万人弱が住んでいるのです。全国の大学生の4割が東京圏に集中しています。
②東京圏では住居費が高額で、住環境は良好とは言えず、労働時間が長くて、通勤時間も長い。地方にいる親の子育て支援が得にくい。そのような子育てに不利な条件があります。全国の都道府県で最も合計特殊出生率が低いのは、東京都の1.13です(2013年)。
地方圏では、若者が少なくて、ふさわしい結婚相手がなかなか見つからない。東京圏では、若者が大勢いるけれども、結婚して家庭を持ち、子供を育てていくことができるか、不安がある――。そのような事情もあって、未婚化、非婚化、晩婚化、晩産化が進行し、少子化が進行しているのです。
筆者は昨年から兵庫教区結婚委員会で奉仕をさせていただいているのですが、――全国的なネットワークを持つ日本イエス・キリスト教団だからこそできる良い問題解決法がある――と思っています。恋愛・性・結婚・家庭・子育てに関して悩んでいる人たちのために、教会学校だからこそできる教育やケアがあります。
第4節 長寿は幸せか?
『データブック』は、少子化、超高齢社会、限界集落の問題が、大都市圏でも古い団地などですでに始まっていることを、指摘しています(94頁)。今後は地方圏だけでなく東京や大阪等の大都市圏でも少子高齢化が著しく進行する、と予測されています。
終戦後間もない1947年には、日本人の平均寿命は男性が50.06歳、女性が53.96歳でした。これが2015年には男性が80.79歳、女性が87.05歳にまで伸びました。男性は世界3位、女性は世界1位の長寿です。医療の進歩や生活改善によって、日本人の寿命は100歳に近づくと言われています。「人生50年」と「人生100年」では、人生観もライフスタイルも、大きく変わるのは当然でしょう。
長寿は幸せか? 実はこれが大問題です。高齢者の単身世帯、いわゆる独居老人が増加しており、身元不明の無縁死や孤独死が増加しています。無縁社会の現実です。通夜や告別式等の宗教的な儀式無しで火葬場に直行する「直葬」が、関東地方では2割を占めています。
厚生労働白書〈平成28年版〉人口高齢化を乗り越える社会モデルを考える
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「終活」、「エンディングノート」がブームとなっていますが、これこそキリスト教の出番です。教会学校を生涯学習の場として活用し、聖書的な死生学の教育を行うと良いでしょう。
第5節 地方教会消滅?
2009年に札幌で開催された第5回日本伝道会議で「地方伝道プロジェクト」が「全教会の課題としての地方伝道」というアピールを出して、過疎化の進む地方における宣教協力が急務であることを、訴えていました。
2014年5月に日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)が発表した「消滅可能性都市896のリスト」は大きな反響を呼びました。全国にある自治体の半分はこのままいくと将来、急激な少子化・人口減少によって破綻する、というのです。その基準は、2010年からの30年間に、20~39歳の女性の人口が5割以上減少することです。
筆者が神学校を卒業して最初に遣わされたのは、北海道の空知地方、岩見沢市にある幌向小羊教会でした。その頃にお交わりをいただいた隣町のご高齢の女性牧師から、最近こんなメールをいただきました。
「炭鉱地帯は皆大変ですが、元奉仕した三笠市は人口が激減し、日本で二番目の小さな市になりました。
1=歌志内、2=三笠、3=夕張、4=芦別。4までは炭鉱地帯です。夕張は福音教会が二個ありましたが閉鎖され、三笠、芦別、美唄は無牧です。
札幌に引っ越した元・三笠教会員が召されて、葬式に三笠から二人が参加しました。その時、札幌に住んでいる元・三笠教会員も参加したら、札幌の教会員より元・三笠教会員の方が多かったので、どちらの教会の葬儀か分からない程でした。
北は旭川から南は大分県まで全国に散らばって行き、オーストラリアやカナダにも引っ越しました。時代の流れですね。私が岡山に引っ越した時、三笠教会は15人でしたが、今は4人。それでも毎週礼拝は守っている。何と感謝な事か!」
地方圏においては教会学校消滅、さらに教会消滅の危機に瀕しているところが少なくありません。これは、私たちの教団も例外ではないでしょう。私たちの教団の母胎である日本伝道隊は「未伝地伝道」という大方針を持っていました。一部の教派・宣教団が避けているような伝道困難な地方にも行って、果敢に伝道活動を展開したのです。
ですから、伝道が困難な地方圏にたくさんの教会があることは、日本イエス・キリスト教団の素晴らしい特長です。地方伝道の喜びも悲しみも共有する「教会性を有する」「霊交互助」の教団が、私たちの教団です。
最近はインターネットを使ったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が普及しています。これは、私たちのように全国的また世界的なネットワークを持つ教団には、大変有用なツールです。フェイスブックには、日本イエス・キリスト教団宣教局子ども伝道の働きの一つとして「子ども伝道アイディアひろば」というグループがあります。全国の諸教会のCS活動を見て、教えられること、励まされることがたくさんあります。ご利用をお勧めします。
https://www.facebook.com/groups/868449213181589/
第6節 リバイバルの炎よ、再び燃え上がれ
バークレー・バックストン師の高弟・大江邦治師が語られた逸話を紹介します。
バックストン先生が松江の赤山で義塾を開かれておった時分のことです。先生は股引きをはいて、麦わら帽子をかぶり、日本人が着るような服装をして、おっしゃった。
「みんな、野外伝道に行こう」
笹尾先生も米田豊先生も私も、みんな若かった。バックストン先生は、私らを連れて毎日のように、松江の町に伝道に行っておられました。
ところが、ある時、20人近くの子どもたちが、袋の中に石や砂を詰めて、私らに投げてきたんです。
わしゃ、もうびっくりして、ほんと泡食って逃げた。結核を患ってたんだけども、身の危険を感じて、もう無我夢中で逃げた。若い人たちはみんな逃げたんです。
ところが、バックストン先生は、ただひとり、じっとその砂煙の中に立っていらっしゃいました。そして、両手を挙げて、涙を浮かべて祈られました。
「どうぞこの松江の人たちを救いたまえ」
「この何も知らない子どもたちを救いたまえ」
本当にキリストの霊に満たされた人の姿を見ました。
出典:山田晴枝著「ステパノの殉教」『月刊ベラカ』2013年3月号 第111号11〜12頁
松江の人々を愛し、とりわけ子供たちを愛して、祈りつつ伝道に励んでおられたバックストン師の姿が、よくわかります。地方伝道は松江バンドのDNAなのです。
バックストン師は、山陰の松江に拠点を置いて宣教活動をした最初の10年間、聖公会松江基督教会の司祭として牧会をして、会堂建築など教会の発展に尽力しました。バックストン師が最初に洗礼を授けた5人のうちのひとり永野武二郎は、聖公会の聖職者となり、松江基督教会で40年以上、牧師を務めました。
牧会をしながらバックストン師は松江の赤山で、超教派的に大勢の弟子たちを養い、訓練し、各地に派遣して「小さき群」を多数生み出しました。その果敢な「前進運動」は、日本伝道隊の「未伝地伝道」に発展して、全国各地に拡大していきました。
折しも、2015年から『バックストン著作集』の刊行が始まり、2016年にはパジェット・ウィルクス著『救霊の動力』の改訂増補版が発行されました。これらの良書を精読して、私たちもその教えを実践しましょう。
バックストン著作集 第一巻 赤山講話 【いのちのことば社のオンライン通信販売サイト ゴスペルショップ(Gospel Shop)インターネット店】
改訂増補版 救霊の動力 【いのちのことば社のオンライン通信販売サイト ゴスペルショップ(Gospel Shop)インターネット店】
そして、リバイバルの炎が再びこの日本に燃え上がることを、信じて共に祈り、CS伝道に励みましょう。
「ただ、聖霊があなたがたにくだる時、あなたがたは 力を受けて、エルサレム、ユダヤとサマリヤの全土、さらに地のはてまで、わたしの証人となるであろう」(使徒1:8)
(続く)
金井由信原著、金井望編著『実を結ぶ教会学校 ーCS教師ガイドブックー』は、アマゾンではかなり高額なプレミアものとなっています。申し訳ございませんm(_ _)m
日本イエス・キリスト教団事務所と私の手元に、まだ在庫があります。ベラカ出版(日本イエス・キリスト教団事務所)が注文を受け付けています(電話:078-575-5511、FAX:078-575-6611)。
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