聖書深読み
■四色ボールペン聖書読解法
この写真に写っている聖書は、私が10歳の時に父からもらったものです。小磯良平画伯の挿し絵が挟まれているのが、良かったのでしょう。
私は、この聖書のテクストのほぼ全体に、4色の色鉛筆でサイドラインを引きました。
【黄】神・キリスト・聖霊に関する部分
【青】悪魔・悪霊、人間の罪・滅亡、神の裁き・刑罰に関する部分
【赤】神が人に与えてくださる赦し、癒やし、祝福に関する部分
【黒】その他の重要な部分
そして例えば、イエスの神性のような重要なテーマを教える時には、少なくとも新約聖書全体の【黄】色のテクストに、ザッと目を通して考えるようにしました。新約聖書は何回読んだのか、数え切れません。
聖書教理については、諸々の講義を受講しましたし、諸々の教派の教科書を読みました。けれども私の場合、最も役立ち、力が付いたのは、この聖書そのものから学ぶ方法でした。一つ一つの教説について、ーー本当に聖書がそう言っているだろうかーーと考えて確かめる習癖が身に付きました。
今でもこの方法を使っていますが、道具は四色ボールペンに変わりました。
現代のキリスト教においては、【青】の面についてあまり教えず、【赤】の面ばかり強調する運動が多いように思います。それは適切ではない、あるいは正しくないと思うのですが…(>_<)
■和訳聖書の比較
現代の和訳聖書は、原典にかなり近い、信頼できる訳文となっています。しかし、古代のヘブル語やギリシャ語で書かれた文書を現代の日本語に訳すのですから、完全・十分とは言えません。
そこで私は、諸々の和訳聖書や英訳聖書を比較して読むことにしました。
一例として、ヨハネの第一の手紙3章4節の和訳を比較してみます。
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「すべて罪を犯す者は、不法を行う者である。罪は不法である」(口語訳)
「罪を犯している者はみな、不法を行っているのです。罪とは律法に逆らうことなのです」(新改訳)
「罪を犯す者は皆、法にも背くのです。罪とは、法に背くことです」(新共同訳)
「すべて罪を犯す人は、法に背いているのです。罪とは法に背くことです」(フランシスコ会訳)
「罪を犯す者は誰でも不法を犯すのである。そして罪とは不法のことである」(岩波訳)
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これらはいずれも、ほぼ同じ意味にとれるでしょう。ただし、新改訳の「律法に逆らうこと」という訳、新共同訳の「法にも」という訳が気になります。
■原語の意味
原語の意味を知るには、旧約聖書ならばヘブル語、新約聖書ならばギリシャ語の基礎的な知識が必要です。そして、旧約聖書ヘブル語辞典や新約聖書ギリシャ語辞典等のツールを使います。
聖書原語を学ぶまで、私は日本語で書かれた聖書辞典や聖書注解に頼りました。日本語ベースの聖書研究ソフトウェア「Jばいぶる」シリーズと「聖書の達人」が販売されると、すぐに飛びついて、利用しました。
ギリシャ語と英語あるいは日本語の対訳(インターリニア)本は、とても便利です。
今は便利な聖書研究のアプリケーション・ソフトウェア(アプリ)が、パソコンだけでなく、スマホやタブレットでもあります。
私が最近、愛用しているのは、Olive Tree のアプリで NIV/NA28 Interlinear と新共同訳聖書を同時に表示したものです。ギリシャ語テクストからギリシャ語辞書(英文)をすぐに開くことができます。
ヨハネの第一の手紙3章4節のギリシャ語テクスト(NA28)と英訳(ESV)を、次に引用します。
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Πᾶς ὁ ποιῶν τὴν ἁμαρτίαν καὶ τὴν ἀνομίαν ποιεῖ καὶ ἡ ἁμαρτία ἐστὶν ἡ ἀνομία
Everyone who makes a practice of sinning also practices lawlessness; sin is lawlessness.
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ἀνομία(アノミア)= ἀ (否定)+ノモス ですから、五つの和訳文を比較すると、口語訳が最も直訳に近いようです。
翻訳においては、一般的には新しいものの方が改善されていると思われがちです。しかし、著作権の関係もあってか、案外、古い訳文の方が良い場合もあります。

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■テクストの文脈
さて、聖書テクストの文脈を理解するためにも、4色の分類は役立ちます。テクストの意味は、文脈の理解によって変わり得るものです。その文書の文法的・文学的・歴史的な性格を理解するためには、聖書辞典、聖書語句辞典(コンコルダンス)、聖書神学辞典、聖書注解(commentary)や聖書時代史等の参考書が役立ちます。

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■他の聖書テクストの参照
聖書の他の部分との関係・整合性も考慮すべき重要な課題です。
ヨハネの第一の手紙3章4節のテクストが説く思想は、今日、一般社会で「罪刑法定主義」と呼ばれる原則に近いものと言えるでしょう。
パウロが著したローマ人への手紙にも、これに近い思想が見られます。
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「いったい、律法は怒りを招くものであって、律法のないところには違反なるものはない」(口語訳 4:15)
「律法以前にも罪は世にあったが、律法がなければ、罪は罪として認められないのである」(口語訳 5:13)
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■神学的考察
ヘブル語の「トーラー」には「教示」あるいは「教導」という原義がありますけれど、旧約聖書においては「律法」や「(モーセ)五書」等、多くの意味でこの語が用いられています。
使徒パウロや使徒ヨハネが述べているように、最初期キリスト教において問題となった「律法」(ギリシャ語「ノモス」)の主たる意味は、宗教的かつ法的なものであった。これは否定できないと思います。

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■著作権に注意!
コンピューターが普及してから、聖書学や神学の専門書は、著しく文量が増加しました。簡単に引用ができるわけですが、著作権のルールは守らなければいけません!
私も、注解書や聖書辞典、ギリシャ語辞典、キリスト教事典、聖書地図等をプレーンテクスト、doc形式、PDF、JPEG等にして様々な端末に入れており、コピペすることがあります。このような場合、そのまま使うなら、少なくとも出典を明示すべきです。それさえしなかったら、学界ではレッドカードが出るのでは?
私は、説教や講義のアウトラインを作る時に、『実用聖書注解』のテクストをコピペして使うことがあります。ただし、それを批評し、加除訂正して、原形が完全に無くなり、私のオリジナル作品になるまで変えます。これは許されるかな(^_^;)
この注解書は日本の福音派のスタンダードだったのかもしれませんが、私は賛成できない部分があります。それでも一応、スタンダードなものは大切に扱った方が良いのじゃないか、と思います(汗)
■フランシスコ会訳
最近、私が愛用している聖書は「フランシスコ会訳」の旧訳分冊版と新訳旧新約合本です。今のところ、その洗練された日本語と、的確な注解、本としての質の高さにおいて、これに並ぶものは無いでしょう。