平和安全法制=安全保障関連法に関して、今でも「戦争法制反対」「戦争反対」を訴える人たちが少なくありません。この問題について少しく私見を述べさせていただきます。
1.日本は積極的な戦争国家になるのか?
まず、「戦争」についてですが、こちらから侵略するようなことは、自衛隊は法的にも能力的にもできませんし、実際にしません。
あちらから攻撃してきた時には、自衛のために戦う。その自衛戦争は、行っても仕方がないのではありませんか。
自衛隊が米軍に追随して海外派兵をして、参戦するーー。「戦争法制」と呼ぶ方々が、そのようなことを想定しているのであれば、それは的外れでしょう。自衛隊は空母すら持っていないのですから。まさかPKOを「参戦」とは言わないでしょうし。
この法制の主旨からすれば、「平和安全法制」「安全保障関連法」と呼ぶべきでしょう。
「自衛隊が米軍の後方支援・兵站を行うことも、参戦することになる」という意見も見聞きします。これについては、丁寧な議論が必要でしょう。
2.後方支援・兵站(へいたん)とは
まず用語の定義の問題があります。
「後方支援」というのは、戦闘を行う正面の部隊を後方から支援する活動であり、非常に幅広い業務が含まれます。
「兵站」(へいたん 英語: Military Logistics)とは、戦争中に、戦闘を行う正面の部隊を、後方から直接的に支援する活動です。例えば、物資の配給や整備、兵員の展開や衛生、施設の構築や維持などが含まれます。
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/sp/700/219221.html
国際平和支援法では、自衛隊が行なう行動として、捜索救助、船舶検査、物品や役務の提供が想定されています。武器の提供は認められませんが、輸送は認められます。
http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/gaiyou-heiwaanzenhousei.pdf
国際平和支援法の全文はこちらです。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/pko/pdfs/horitsu.pdf
3.アメリカ軍への後方支援・兵站
米軍に対する後方支援・兵站は、国際平和支援法の趣旨とは異なり、他の平和安全法制の法律が適用されます。集団的自衛権の問題です。
すなわち、日本の存立に関わる危機事態が発生した場合に、自衛隊が米軍の後方支援、とりわけ兵站活動を行なうことは可能です。その地理的範囲は、日本の領海・領空・領土に限定されません。それは具体的には、朝鮮半島有事と台湾有事において適用される可能性が最も高いと思われます。
4.南シナ海を含むのか?
政府与党は、集団的自衛権=同盟関係を米国や韓国に限らず、東南アジア諸国、オーストラリアにまで広げて、南シナ海での有事も「日本の存立危機事態」に含めるつもりかもしれません。
なぜなら、今年すでに日本は米国や韓国だけでなく、オーストラリア、フィリピン、ベトナムと合同軍事演習・共同訓練を行っているからです。
中国軍が示した「第一列島線」「第二列島線」「防空識別圏」を見れば、中国が東シナ海と南シナ海を一体と見ていることは明らかです。
しかし、南シナ海における自衛隊の防衛行動は、国内世論と国際社会の理解を得られるかどうか、難しい課題でしょう。
シーレーン防衛については、別に考えるべきカテゴリーだと思います。
http://toyokeizai.net/articles/-/72301?display=b
5.自衛隊の海外貢献
自衛隊の海外貢献は今後も、国連の下で行うPKOが基本であることに変わりはないでしょう。それは法的にも、実務的にも、世論や国際社会への配慮という面からも、それ以外は難しいというのが現実であるからです。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/peace_b/genba/pko.html
★国際平和支援法の適用要件は以下のとおりです。
次のいずれかの国際連合の総会又は安全保障理事会の決議が存在する場合
① 国際社会の平和及び安全を脅かす事態に対処するための活動を行うことを決定し、要請し、勧告し、又は認める決議
② ①に掲げるもののほか、当該事態が平和に対する脅威又は平和の破壊であるとの認識を示すとともに、当該事態に関連して国際連合加盟国の取組を求める決議
★国際平和協力法の適用要件は以下のとおりです。
次のいずれかが存在する場合
① 国際連合の総会、安全保障理事会又は経済社会理事会が行う決議
② 次の国際機関が行う要請・国際連合・国際連合の総会によって設立された機関又は国際連合の専門機関で、国際連合難民高等弁務官事務所その他政令で定めるもの・当該活動に係る実績若しくは専門的能力を有する国際連合憲章第五十二条に規定する地域的機関又は多国間の条約により設立された機関で、欧州連合その他政令で定めるもの
③ 当該活動が行われる地域の属する国の要請(国際連合憲章第七条1に規定する国際連合の主要機関のいずれかの支持を受けたものに限る。)
6.「戦争法」という用語は適切か
「戦争法案」「戦争法制」「戦争法」という造語を使う方々は、以下四つのどのレベルで使っているのでしょうか?
①日本国は戦争を行う権利がある。
②日本国は戦争を行う可能性がある。
③日本国は戦争を行う可能性が高い。
④日本国は戦争を行う。
あるいは、「日本国は戦争を行う権利が無い。日本国は戦争を行わない。侵略されたら、降伏するしかない」という立場ならば、①から④まで全否定でしょうけれど。
国連憲章では、自衛権=個別的自衛権+集団的自衛権は、すべての国が当然持っている権利とされています。交戦権も、すべての主権国家に認められています。
これらを認めないということは、国家としての独立を自ら放棄することに他ならない。それが国際社会の現実です。
ーー世界のほとんどの国が「戦争法」を持つ「戦争可能国家」である。今回の平和安全法制=安全保障関連法は「戦争法」であり、これによって日本は「普通の国」=「戦争可能国家」になったーー
このような考え方であれば、「戦争法制」「戦争法」という呼称も使用可能かもしれませんが。
7.普通の国
平和安全法制=安全保障関連法の成立によって、日本は直接的に領海・領空・領土を攻撃されなくても、参戦が可能になりました。
「海外派兵」と呼ぶのは不適当ですが、「日本の存立に関わる危機的な事態」が起こった場合には、自衛隊が米軍等と共に防衛活動=軍事行動を行うことが可能となったのです。
ひと昔ふた昔前に、このような「普通の国」になろう、と盛んに言っていたのは、小沢一郎氏でした。彼がなぜ今さら反対派になったのか、理解に苦しむところです。
日本国憲法の前文や第9条に規定される平和主義には、前提条件があります。それは、国連を中心とした集団安全保障体制=国連軍の常設です。これは戦後70年を経ても未だ実現していません。
それが実現するまでは、個別的自衛権も集団的自衛権も、すべての国が持つ固有の権利であるーーと、国連憲章は述べています。
今日の日本を取り巻く国際情勢=軍事的緊張状態においては、平和安全法制=安全保障関連法が必要であり、日本国が「普通の国」=「戦争可能国家」になることは、やむを得ないのではないでしょうか。