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カナイノゾム研究室

聖書のメッセージや社会評論などを書いています。

帝国主義と世界宣教

 

www.pewforum.org

ピュー・リサーチ・センターの2011年の統計によると、世界には21億8千万人のキリスト教徒がいる。世界人口のおよそ3分の1がクリスチャンである。そのうちローマ・カトリックが半数で約11億人、プロテスタントは37パーセントで約8億人、東方教会は12パーセントで約2億6000万人である。西方教会が圧倒的に多数を占めている。

西欧を経て世界に広まった西方教会の宣教は、欧米諸国の帝国主義的な侵略・植民地支配と密接な関係がある。この問題について歴史的に考察してみたい。 

 

  1.大航海時代

 

欧米列強によるアフリカ、アジア、南北アメリカの侵略と植民地支配が始まったのは、15世紀である。それを正当化したのはローマ教皇庁であった。1455年、教皇ニコラウス5世は大勅書を出して、アフリカの大西洋沿岸の土地をすべて所有する独占的権利をポルトガル国王に与えた。

 

ポルトガルは1488年にアフリカ大陸南端・喜望峰を回航。その後インド洋の沿岸各地に拠点を築いてムスリムと戦い、インド洋の覇権を握った。そして、東南アジアや東アジアにまで貿易網を拡大した。イエズス会の宣教師は、このルートで日本にまで渡航し、布教した。

1492 西欧文明の世界支配 (ちくま学芸文庫)

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  2.スペインによる南北アメリカの支配

 

1492年に、スペイン国王の支援を得たコロンブスが大西洋を渡って新大陸を「発見」。それ以降、スペインはアステカ文明マヤ文明、インカ文明等の栄えた国々を滅ぼして、南北アメリカのほとんどを領有するに至った。そして、太平洋を越えてフィリピンにまで領土を広げた。 1493年にローマ教皇アレクサンデル6世が、大西洋の真ん中、西経45度を分界線と定めたため、ポルトガルは新大陸ではブラジルだけを領有することとなった。

 

スペイン人の征服者は、インディオを鉱山や農園で強制的に働かせて、銀や農作物を本国へ送った。ヨーロッパ人が持ち込んだ伝染病や戦争、強制労働によって、15世紀から17世紀までの間に数千万人のインディオの命が失われた。インカ帝国では、1150万人もいた人口が、スペインの侵略後40年間で150万人にまで減少した。

 

スペイン人はインディオに対してローマ・カトリックへの改宗を強制した。しかし、ラス・カサス神父のように、インディオの人権を尊重して、スペインの暴虐に抗議したり、インディオを保護したりする者も、少数ながら存在した。

  

インカの反乱―被征服者の声 (岩波文庫)

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インディアスの破壊についての簡潔な報告 (岩波文庫)

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ラス=カサス (Century Books―人と思想)

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神か黄金か―甦るラス・カサス

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  3.アフリカ黒人奴隷の輸入

 

アフリカ黒人の売買は、15世紀にポルトガルによって始められた。スペイン人は、インディオに代わる新しい労働力として、アフリカから中南米に黒人奴隷を輸入した(三角貿易)。17世紀以降は、ブラジルのコーヒープランテーション西インド諸島の砂糖プランテーション、北アメリカ南部の煙草や綿花のプランテーションなどに、アフリカ黒人奴隷が投入された。アフリカから強制連行された黒人奴隷は1200万~1500万人に及ぶと推計されている。輸送される途中で死んだ者も多かった。

 

ローマ・カトリック教会プロテスタント教会も長年、奴隷売買に反対せず、容認していた。侵略・植民地支配とキリスト教宣教が不可分の関係にあったからである。

 

カトリック教会と奴隷貿易―現代資本主義の興隆に関連して

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近代世界と奴隷制―大西洋システムの中で

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アメリカ南部バプテスト連盟と歴史の審判―ひとつの根源的な罪の痕跡

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  4.欧米列強の帝国主義プロテスタントの世界宣教

 

1588年、アルマダ海戦で、イングランド海軍がスペインの無敵艦隊を破った。それ以降スペインは衰退し、イギリスが急速に国力を高めて、17世紀後半には史上最大の世界帝国に発展した。イギリスは、インド産の綿織物や中国産の茶の交易に成功した。そして18世紀後半にイギリスで産業革命が起こった。

 

工業化(industrialization)の波は、1830年代にフランス、ベルギー、アメリカに、1840年代にドイツに、1890年代にロシア、日本に伝播した。これらの国々は、燃料や工業原料となる天然資源、工業製品を輸出する市場、食糧の生産地等を求めて、激しい植民地争奪戦を展開することとなった。帝国主義の時代である。

 

欧米列強の工業化と帝国主義は、プロテスタントの世界宣教と重なっている。

 

17世紀にドイツで盛んになった敬虔主義の運動は、モラヴィア派に影響を与えた。18世紀にモラヴィア派の宣教師はアフリカ、インド、南北アメリカなどで宣教活動を展開した。モラヴィア派は英国の伝道者ジョン・ウェスレーに多大な影響を与えた。18世紀に英米で起こったリバイバリズム(大覚醒、信仰復興運動)において、ウェスレーは絶大な影響力を持った。このリバイバリズムが、世界宣教の原動力となった。

 

18世紀の終わりに、アメリカのニューイングランドで第二次大覚醒が始まった。19世紀のリバイバリズムによって、欧米からアフリカやアジアなど世界各地へ宣教団が送られた。同時期に欧米のキリスト者は、奴隷制度撤廃の運動を展開した。

 

  5.脱西欧=脱近代の時代

 

ラテン・アメリカは1808年から1824年までの間にスペインとポルトガルの支配から解放されたが、今日に至るまで人口の約9割がローマ・カトリック教会に属している。

 

アフリカの多くの教会は、19世紀の終わり頃からいわゆる「宣教師教会」から離脱して、独自の教会形成を始めた。「アフリカ独立諸教会」(African Independent Churches)と呼ばれる諸教会である。

 

アフリカやラテン・アメリカの諸教会では、ブードゥー教などアフリカ土着の信仰が混じり込んだシンクレティズム(混淆宗教)の現象も見られる。シンクレティズムは、インドや中国、朝鮮、日本などアジアの各地でも起こった問題である。

 

第二次世界大戦後、アジア、アフリカ、オセアニアで、次々と独立国が生まれた。その諸国において、キリスト教徒の人口が爆発的に増加した。ラテン・アメリカを含めて、かつて「第三世界」と呼ばれた「後進的な」諸国・諸地域が、今やキリスト教の中心となりつつあり、21世紀の世界の中心となりそうな趨勢である。
 

1910年には世界のキリスト教徒の3分の2はヨーロッパに住んでいた。今日、世界のクリスチャンのうちヨーロッパに住んでいるのは26%に過ぎない。37%はアメリカ大陸に住んでいる。24%はサハラ砂漠以南のアフリカに住んでおり、13%はアジアとオセアニアに住んでいる。

 

国別で見た順位とクリスチャン人口、国内人口比率、世界人口比率は以下の通りである。

1. アメリカ合衆国 --- 2億4678万人 - 79.5% - 11.3%

2. ブラジル --- 1億7577万人 - 90.2% - 8.0%

3. メキシコ --- 1億0778万人 - 95.0% - 4.9%

4. ロ シ ア --- 1億0522万人 - 73.6% - 4.8%

5. フィリピン   -- 8679万人- 93.1% - 4.0%

6. ナイジェリア  -- 8051万人- 50.8% - 3.7%

7. 中 国      -- 6707万人- 5.0% - 3.1%

8. コンゴ共和国    -- 6315万人- 95.7% - 2.9%

9. ド イ ツ    -- 5824万人- 70.8% - 2.7%

10.  エチオピア   -- 5258万人- 63.4% - 2.4%  

 

帝国主義の悪は決して許されることではないが、この巨大な不条理の中で、その悪しき帝国主義を用いて、キリストの福音が南北アメリカ、アフリカ、アジア、オセアニアの各地に伝えられ、巨大なキリスト教世界がそこに形成された。神の為される御業は、我々の人智を遥かに越えて、不可思議=神秘なるものである。

 

現代のキリスト教において顕著に見られる特徴の一つは、脱西欧=脱近代である。それは「西欧近代」という「普遍的価値」の神話をつき崩すものであるが、それによって到達するのは正統的・本来的なキリスト教であるのか否か。そして、それは、多元化・多極化して「文明の衝突」を経験する現代の世界に、解決を与えるものであるのか否か。「神が死んだ」モダンの時代を突き抜けて、我々は今、キリスト教の真実と真価が問われる重要な時機にいる。

 

  6.日本のキリスト教は脱皮できるか

 

自らが日本人であることを忘れている、あるいは軽視しているキリスト教指導者たちの一部に、筆者は根本的な問題を感じている。彼らは未だに欧米人の視点でキリスト教を理解し、実践しているからである。それでは、多くの自覚的な日本人がキリスト教に違和感を感じ、反発するのは当然である。

 

現代の世界ではキリスト教も大きく変わっている。近代のキリスト教帝国主義的な征服者である欧米人の宗教であった。しかし、これまで見てきたように、現代では、欧米人の信者よりもそれ以外(アジア、アフリカ、中南米オセアニア)の信者の方が圧倒的に多数となっているのだ。

 

そもそもイスラエル民族・ユダヤ人はアジアの民であり、古代のエジプト、アッシリアバビロニア、ペルシア、ギリシア、ローマといった諸々の帝国に征服され、蹂躙され、支配された人々であった。その民と共に歩んで、自らその苦難を味わいつつ、この地上に天的・霊的な王国である「神の国」を実現したのが、主イエス・キリストである。

 

それゆえ、欧米人の支配者たちよりも、むしろ彼らに苦しめられた貧しき民こそ、イエス・キリストの救いを真に理解し、経験し、実践することができるのかもしれない。

 

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<参考文献>

フスト・ゴンサレスキリスト教 (下巻)』新教出版社 、2003

クヌート・アルスボーグ『教会の歴史』神戸ルーテル神学校、2002
丸山忠孝『キリスト教2000年』いのちのことば社1985

井上正己(監訳)『キリスト教2000年史』いのちのことば社2000

W.R.メドリンク『キリスト教伝道史』ヨルダン社、1960

宇田進他編『新キリスト教辞典』いのちのことば社1991

木下康彦他編『詳説世界史研究』(改訂版)山川出版社2008

木村尚三郎監修『世界の歴史できごと事典』集英社1989