1.中国の著しい軍拡
中国政府は3月5日に発表した2013年予算案で、国防費の予算を7406億元、日本円でおよそ11兆1120億円、去年に比べて10.7%の増加という高い水準に設定した。これは世界的に突出した規模の軍拡だ。
<主要国の国防費予算>
アメリカ およそ64兆2700億円(2012年度)
中国 およそ11兆1120億円(2013年度)
ロシア およそ 5兆6000億円(同上)
イギリス およそ 5兆5000億円(同上)
フランス およそ 4兆6000億円(同上)
日本 およそ 4兆7000億円(2013年度)
(NHK NEWS WEB、2013年3月5日)
ただし、実際には、国防のための予算は、ここに挙げた数字だけではない、とも言われる。予算の区分の仕方や計算の仕方で、数字の操作はできる。日本も米軍に対する「思いやり」予算がある。
それにしても、中国の今年の経済成長率の目標は7.5%前後、物価上昇率の目標は3.5%前後だから、国防費の伸びは突出している。
なぜ中国は、これほど急いで軍拡を進めるのか。なぜ中国の海洋監視船が尖閣諸島にまとわりついているのか。なぜ南シナ海で強引に勢力圏を拡張しているのか。
2.中国の軍拡の背景
この問題の背景にあるのは、人口、食糧、資源、エネルギー等、中国自身が抱える諸問題だ。
これまで中国は90パーセント以上の食糧自給率を維持してきた。近年、中国政府は国内の食糧増産を盛んに進めているが、同時に、海外の豊かな農地をどんどん買収している。豊かになりつつある国民の消費需要を満たすためには、国内の農業生産だけでは不足するからだ。また、世界的な食糧危機に備えているという面もある。
資源・エネルギーについても、同様の事情がある。中国は最近まで資源の輸出国であったが、経済の急成長に伴って国内需要が急増し、輸入国に転じてしまった。
今、中国は「世界の工場」としてフル稼働するために、莫大な資源・エネルギーを必要としている。この問題は、市場経済のグローバル化にも大きく関係しているのである。
中国の軍拡の主たる狙いは、シーレーンの確保である。シーレーン防衛の重要性は、太平洋戦争の例を持ち出すまでもなく、我々、日本国民にはよくわかることだ。
3.中国の海洋戦略とその対策
中国は最近、空母の試験運行を始めた。その空母「遼寧」は、1980年代にウクライナで造られた中古品で、「ヴァリャーグ」と呼ばれるものである。中国は、その実験を通してデータを蓄え、自前の空母を製造する計画を進めている。
<参考>
http://www.youtube.com/watch?v=rNN2Hq5SrMI http://www.youtube.com/watch?v=9GPV5g0lkPQ
中国の軍隊は、数では圧倒的だが、能力的にはまだ問題が多い。しかし、軍事費が二桁の成長率で増えており、技術的にも向上していくことは間違いない。
東アジア・太平洋地域の安定を脅かす、この問題を解決する術を見つけることが、急務である。日本、アメリカ、韓国、台湾、ASEAN、ロシア等、関係する諸国は、この事情をわきまえて、賢明に、連携して対処していくことが必要だろう。
もちろん、日米安保=日米同盟がある限り、尖閣諸島をはじめ日本の領土に、中国は容易に手を出せないだろう。しかし、米国は国防費をこれからの10年間で6000億ドル削減することになった。米軍の東アジア・太平洋地域におけるプレゼンスは次第に衰えていく。米国は、その分を日本が負担するように、求めるだろう。
少子高齢化、人口減少、産業空洞化、赤字国債、デフレに苦悩する我が国が、その要求に対応しきれないことは、言うまでもない。
4.中国国内の矛盾と民主化
中国の国家予算には、もう一つ注目すべき特徴がある。2013年予算案で、公共安全予算は前年実績比8.7%増の7690億元(約11兆5千億円)とされた。ここ3年ほど、国防費よりも治安維持費の方が多くなっているのだ。ちなみに環境対策費はその半分以下の3286億元だ。
経済成長は、高所得者や中間層を増大して、彼らに新しい政治意識を生み出す。グローバル経済というフィールドで活躍する人々が「真実」を知るのは、必然である。
一方、取り残された貧困層は、極大化する経済格差に不満を爆発させるだろう。中国共産党が最も恐れているのは、彼ら自身の存在を脅かす、急進的な民主化の動きだ。
極大化する国内の経済格差は、拝金主義という病を国中に蔓延させている。中国最高人民検察院が3月10日に行った活動報告によると、2012年までの過去5年間に収賄や横領などで立件された公務員が21万8639人もいた。
戦後、中国では極端な反日教育が長年、続けられてきた。これは、中国共産党の正統性を国民に認めさせて、国民の目を内政問題から国外にそらすために行われたものである。国際化、高度情報化の時代にあっては、この手法も効果が低減する。
近未来に中国では、内部に抱えている矛盾が限界に達して、共産党の一党支配が崩壊するだろう。これはすでに想定されていることである。問題はその先、中国がどのような体制に移行するか、東アジア・太平洋地域の安定をどのように保つか、である。
その巨大な変化のうねりの中で、我が国は主体的、積極的に関与して、この地域の新しい展望を切り開いていけるだろうか。