KANAISM BLOG ー真っ直ぐに行こうー

聖書のメッセージやキリスト教の論説、社会評論などを書いています。

天皇制反対=共和主義へと向かうべきか

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メシアに出会った東方の博士たち

日本福音主義神学会 西部部会 2019年度春季研究会議 研究発表

2019年6月9日@大阪聖書学院

皇室のキリスト教への改宗こそ、日本宣教の課題である!

 


皇室のキリスト教への改宗こそ、日本宣教の課題である!

 

  はじめに


今年5月1日に天皇の代替わり・改元が行われて「令和」の時代となり、早や一か月が過ぎた。マスコミはこぞって新天皇の即位に祝意を表し、政党も皆、共産党でさえ祝意を表している。ところが、キリスト教諸団体は、天皇の代替わり儀式に反対する声明を次々と出しており、突出した感じがある。

天皇の退位と即位に際しての政教分離に関する要望書 | カトリック中央協議会

日本キリスト改革派教会 川杉安美大会議長「天皇『代替わり』の諸行事に関して政教分離国民主権の原則を厳守するよう求める声明」

http://www.rcj-net.org/statement/statement_against_prime_minister_2018Oct10.pdf

日本基督教団総会議長 石橋秀雄「天皇の退位および即位の諸行事に関する声明」

http://uccj.org/wp-content/uploads/c63b5efbd69e93d5ec5b415956829884.pdf

日本聖公会主教会・正義と平和委員会「大嘗祭への国の関与は政教分離の原則に反します」

http://www.nskk.org/province/seimei_pdf/190221taii_sokui.pdf

20190424 新天皇即位と元号改元に際しての私たちの信仰的表明(2019年4月24日 理事会声明) – 日本バプテスト連盟

即位の礼・大嘗祭に関する宣言 – 日本同盟基督教団

キリスト教婦人矯風会「『即位礼・大嘗祭(だいじょうさい)』に対する声明」

http://kyofukai.jp/wp-content/uploads/2019/02/d914e7d1ac7d693c1a99e747d5b730db.pdf

www.asahi.com

biz-journal.jp

■平成の御代替わりに伴う儀式に関する最高裁判決

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/taii_junbi/dai2/siryou6.pdf

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キリスト教と日本」、「日本宣教と天皇」というテーマは、キリシタン時代から今日に至るまで、我々日本の教会・キリスト者にとって、避けることのできない本質的な問題であった。日本福音主義神学会では、たびたびこの問題に関係する研究発表が為され、論文が学会誌に掲載されてきた。次の三つは、その代表的な論文と言えよう。

橋本 龍三「福音宣教における天皇制の問題」(21号、1990年)

http://www.evangelical-theology.jp/jets-hp/jets/jets_paper/jets_papers21.html

山口 陽一「日本の政治文化と教会――悔い改めない文化と教会の責任」(26号、1995年)

http://www.evangelical-theology.jp/jets-hp/jets/jets_paper/jets_papers26.html

油井 義昭「日本の教会の戦前・戦中の歩み──国家神道の圧制のもとで」(27号、1996年)

http://www.evangelical-theology.jp/jets-hp/jets/jets_paper/jets_papers27.html

日本キリスト教協議会(NCC)や日本福音同盟(JEA)、キリスト者学生会(KGK)、各教派・教団・グループ、宣教団体、大学・神学校などでも、これは長年、追究してきた問題である。その結果、今日でも、天皇制を廃止して共和制に変えるべきだと主張する人たちが、日本の教会内にいる。

松谷好明「象徴天皇制と日本の将来の選択 : キリスト教的観点から」

https://serve.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=1695&file_id=22&file_no=2

 『天皇の代替わり問題とキリスト教Q&A』 - 日本キリスト教協議会

salty-japan.net

果たして、それが聖書の教えに従う道なのか。それが日本における宣教と教会形成にふさわしいことか。他の道は無いのか。この研究発表はこうした問題について考察し、提言を行うものである。

 

  1.象徴天皇制の圧倒的な支持

 

毎日新聞が4月13,14日に実施した全国世論調査で、今の憲法に定められた象徴天皇制についてどう思うかを尋ねたところ、

「現在の象徴天皇制でよい」と答えた人が74%、

天皇制は廃止すべきだ」は%、

天皇を現在よりも、もっと権威と力のあるものにすべきだ」は

であった。

国民の圧倒的多数が、現行の象徴天皇制を支持しているのである。

終戦から43年を経て昭和から平成へと時代が変わり、さらに30年を経て時代は令和に変わった。元号への賛否がどうあれ、改元によって日本国民の意識に変化が起きているのは、明らかである。

戦争を直接体験した世代が中心となって「戦後」の社会と教会を築いた昭和の時代は、とっくに終わっている。戦前戦中の世界観・歴史観・価値観を真っ黒に塗りつぶす「戦後教育」を受けた世代が中心となった平成の時代も、終わった。

直接的な戦争体験者の減少はマイナス面も大きいが、プラス面もある。すなわち、より長い歴史的なスパンで、また、より広いグローバルな視野で客観的に「日本」と「天皇」について捉え直すことが可能となっているのである。


教育の民主化(墨塗り教科書・仮とじ教科書)

http://archives.pref.yamaguchi.lg.jp/user_data/upload/File/ags/6-1-1-010.pdf

ja.wikipedia.org


  2 日本の成立


我々キリスト者は聖書が教えるとおり、神があらゆる国と王朝の興亡を支配しておられる、と信じている。それには異教の国や王も含まれる。 

神は、一人の人からあらゆる民を造り出して、地の全面に住まわせ、それぞれに決められた時代と、住まいの境をお定めになりました。(使徒17:26)
神は季節と時を変え、王を廃し、王を立てる。(ダニエル2:21) 

日本国民にとって天皇の代替わり・改元がなぜ喜ばしいのか。それは、倭人・日本人が2000年にわたって築いてきた「日本」という祖国が、アイデンティティーを保って今も存続している証しだからである。

ただしそれは「単一民族が2000年にわたって日本列島に単一の国を保持してきた」という意味ではない。考古学や歴史学、DNA解析などによって明らかになった古代の日本列島は、北から南から西から流入してきた諸民族が、衝突したり、融合したり、棲み分けたりしていた多民族多文化共生社会であった。 

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核DNA解析でたどる 日本人の源流

核DNA解析でたどる 日本人の源流

 
日本人はどこから来たのか? (文春文庫)

日本人はどこから来たのか? (文春文庫)

 

1世紀に書かれた『漢書』地理志によると、当時の倭人は100余りの小国に分かれていた。福岡県の志賀島で発見された金印には「漢委奴国王」と刻まれている。これは57年に漢の光武帝が倭の奴国の使者に下賜したものだと考えられている。

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金印「漢委奴国王」

後漢書東夷伝によると、107年に倭国王帥升後漢へ使者を遣わし、生口(奴隷)を160人献呈している。

『魏書』倭人条によると、2世紀後半に起きた倭国大乱の後、30の国が卑弥呼を女王として共立し、都を邪馬台国に置いた。纏向遺跡奈良県桜井市)がその都であり、箸墓古墳(全長278m)が卑弥呼の墓であるという学説が、有力となっている。卑弥呼の死は248年頃である。この倭国連合がヤマト王権の成立に直接関係していると考えられる。

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箸墓古墳

纒向遺跡ってどんな遺跡?|桜井市纒向学研究センター

箸墓古墳(桜井市 箸中)陵墓 - 一般社団法人 桜井市観光協会公式ホームページ

石上神宮奈良県天理市)には、372年に百済近肖古王から倭王に贈られた七支刀がある。

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七支刀(石上神宮

www.isonokami.jp

「古代日本」誕生の謎―大和朝廷から統一国家へ (PHP文庫)

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古代国家はいつ成立したか (岩波新書)

古代国家はいつ成立したか (岩波新書)

 
天皇誕生―日本書紀が描いた王朝交替 (中公新書)

天皇誕生―日本書紀が描いた王朝交替 (中公新書)

 

607年、第33代推古天皇の時代に小野妹子が隋に派遣された。煬帝は「日出づる処の天子、書を日没する処の天子に致す」(『隋書』東夷伝)と述べる国書を受け取って、激怒した。古代中国の思想で「天子」とは、天上の最高神である天帝(天主、天皇)の子であり、天命により天下を治める者とされたからである。日本の天孫降臨神話のルーツはアジア大陸にある。

元号は第35代皇極天皇の時代、大化の改新(645年)から始まった。「天皇」という君主号は第40代天武天皇(在位673年~686年)の時代に制定され、689年に施行された飛鳥浄御原令に明記されている。2012年に中国で王連竜が発表した論文によると、西安で見つかった石板の墓誌に「日本」の文字がある。その墓誌は678年の作である。「日本」の国号が正式に採用されたのは第42代文武天皇の時代、701年の大宝律令においてである。
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  3.日本と天皇の存在意義

 

国号も天皇号も元号も7世紀以来、日本が中国の華夷秩序に、また欧米列強の帝国主義に従属しない独立国であることの証しとして、存続してきたものである。それゆえ「天皇」「代替わり」「改元」を否定することは、「日本国」そのものを否定しているかのように、一般的に思われる。これらを否定して「反日左翼」と見なされた教会が、日本人に伝道できるだろうか。


 土肥 歩「五四運動と中国キリスト教界の『反日』言説」

明治学院大学機関リポジトリ

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北朝鮮×キリスト教ネットワーク

北朝鮮と日本のキリスト教団の関係

日本基督教団 実録教団紛争史

日本基督教団 実録教団紛争史

 

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下世話なQ&A「クリスチャンは共産党を支持しないといけないんですか?」

www.jcp.or.jp

www.zenshin.org

salty-japan.net

https://hi-hyou.com/archives/10007?fbclid=IwAR1rQM-VzJcr5U90WAt7lboM5M16V8Jgs2I914HJcBkr8PEfF_YPscpWDcQ


世界に現存する王朝の中で、皇室ほど長く続いている王朝は他に無い。王朝交替説が正しいとしても、第26代継体天皇の即位は507年であり、継体王朝は1500年以上続いている。継体天皇は第15代応神天皇仲哀天皇神功皇后の子)の5世孫であり、大王の家系としては傍系の出である。ただし、継体天皇は、第24代仁賢天皇の皇女であり第25代武烈天皇の姉である手白香皇女(たしらかのひめみこ)を皇后としている。第29代欽明天皇(在位539年~571年)は継体天皇手白香皇女の子であるから、大王家の直系の血統を受け継いでいる。今上天皇欽明天皇の子孫である。この事実は国際社会において非常に重要な意味を持つ。 

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継体天皇系図

大航海時代から500年にわたって続いた帝国主義は、「西欧近代」モデルの文化によって全世界を塗りつぶす運動でもあった。その文化の基礎にはキリスト教人文主義があった。その文化侵略に対して長年にわたり強力な抵抗を続けたのが、日本である。200年に及ぶ「鎖国」の後、明治維新以降に日本人が取った態度は和魂洋才である。ポストモダンの現代においては逆に、ローカルな独自の高度な文化を保持する日本が高く評価され、世界中の人々が日本の文化に大変な興味・関心を持っている。

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文化防衛論 (ちくま文庫)

文化防衛論 (ちくま文庫)

 2018年に日本を訪れた外国人観光客数は3,119万人であり、前年比8.7%増となっている(観光庁観光統計)。日本語は世界でも難しい言語の一つであるが、今や137か国で365万人の外国人が日本語を学習している(国際交流基金「2015年度海外日本語教育機関調査」)。これは学校その他の教育機関で日本語を学習する人の数であり、文化交流団体やテレビ・ラジオ・書籍・雑誌・インターネットなどで日本語を学習する外国人の数は、これを大きく上回っている。

このような変化が起きている現代において、「日本」と「天皇」に関する再考の作業を怠るならば、教会は日本の人々の頭と心に響く宣教の言葉を語ることが、できなくなるだろう。

天皇は今日の世界に現存する唯一のEmperor=king of kingsである。皇帝がいなければ、我々は真の「神」(God、創造主)「キリスト」を指す「諸王の王」という聖書の言葉(ダニエル2:47、黙示録17:14、19:16)を、具体的に理解することができない。「諸王の王」(king of kings)という称号は、古代ペルシア帝国(アケメネス朝)を開いたキュロス大王が使用したものである。古代中国・漢字文化圏においても、「天子」や「天皇」は「天の神」(ダニエル書2:37)「天帝」「天主」の雛形であり、「神」の栄光を映す「鏡」であった。

聖書と古代中国の7つの謎

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   4.天皇制反対=共和主義へと向かうべきか

 

ところが、天皇制とキリスト教信仰の関係について、「両者は相容れないものであるから、天皇制廃止=共和主義へ向かうべきだ」と主張するキリスト者がいる。

それは明治維新から昭和20年まで続いた国家神道体制が、大東亜戦争期における軍国主義に帰結し、アジア太平洋地域に甚大な犠牲者と損害をもたらしたからである。その時期に、日本の教会が軍国主義国家神道に加担・協力し、「日本的キリスト教」を生み出したこと、そして、日本とアジア太平洋地域のキリスト者が国家権力によって迫害を受けたことが、我々にとって極めて大きな重荷となっている。

メイド・イン・ジャパンのキリスト教

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天皇とキリスト: 近現代天皇制とキリスト教の教会史的考察

天皇とキリスト: 近現代天皇制とキリスト教の教会史的考察

 

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 最近発行された「教会と政治」フォーラム編『キリスト者から見る〈天皇の代替わり〉』には、牧師たちの次のような主張が記されている。 

天皇や皇族の救いと天皇制度が不要となること、その目標に向かって象徴天皇制に頼らない民主主義を育て、天皇と日本が悪魔化しないよう政教分離を守る務めを果たしたいと思います。(山口陽一、p.36)

天皇制の神学的批判は、しばしば「偶像礼拝禁止」との類比で行われます。君主は神の位置になりやすいものです。(中略)この批判的立場を貫くならば、憲法を改正して立憲君主制を廃止することを主張するのが筋です。(城倉啓、p.64)

 あり得ないことを承知のうえで、もし悔い改めとさばきによる代替わりがあるとするならば、昭和天皇こそが1945年8月に退位すべきであり、より根本的に言うならば、天皇制そのものが廃止されるべきだったでしょう。(朝岡勝、p.116)

 天皇を神格化し、象徴天皇制国家神道体制に戻そうとする動きに抵抗するだけでなく、将来は皇室の民営化(公的制度としての象徴天皇制の廃止)を目指して、祈り、働いていくことこそ、天皇制の問題に対する教会の祭司的使命であると思います。(弓矢健児、p.181)

キリスト者から見る〈天皇の代替わり〉 (いのちのことば社)

キリスト者から見る〈天皇の代替わり〉 (いのちのことば社)

 

  彼らの主張は余りにも国民一般の意識とかけ離れている。このような運動が日本宣教の大きな障害となりつつある。果たして聖書の教えに従うならば、天皇制反対=共和主義へと向かうのが必然なのだろうか。聖書には「君主制を廃止せよ」という教えは無い。むしろ「偶像崇拝を勧める王にも忠実に仕えよ。ただし、あなたは偶像を拝んではならない」というのが聖書の教えである。  皇帝を神として崇拝するローマ帝政下に生きる伝道者・牧者・信徒に、使徒パウロ使徒ペテロは次のように教えている。

人はみな、上に立つ権威に従うべきです。神によらない権威はなく、存在している権威はすべて、神によって立てられているからです。したがって、権威に反抗する者は、神の定めに逆らうのです。逆らう者は自分の身にさばきを招きます。(ロマ13:1-2)

あなたは人々に注意を与えて、その人々が、支配者たちと権威者たちに服し、従い、すべての良いわざを進んでする者となるようにしなさい。(テトス3:1)

人が立てたすべての制度に、主のゆえに従いなさい。それが主権者である王であっても、あるいは、悪を行う者を罰して善を行う者をほめるために、王から遣わされた総督であっても、従いなさい。(第一ペテロ2:13-14)

そこで、私は何よりもまず勧めます。すべての人のために、王たちと高い地位にあるすべての人のために願い、祈り、とりなし、感謝をささげなさい。(中略)そのような祈りは、私たちの救い主である神の御前において良いことであり、喜ばれることです。(第一テモテ2:1,3)

偶像崇拝を強要する王に仕えつつ、命をかけて偶像崇拝を拒んだシャデラク、メシャク、アベデ・ネゴ(ダニエル3章)や、王以外への祈願を禁じる法令が出されても、命がけで天の神に祈ったダニエルの生き方(ダニエル6章)が、良い模範である。

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この世の終末期に「荒らす忌まわしいもの」(マタイ24:15)、「不法の者」(第二テサロニケ2:3-12)、「獣」(黙示録13章)が強大な王権を持ち、自らを神として、人々に礼拝を強要すると、聖書は教えている。しかし安易にこれを今ある王に適用すべきではない。 

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人種差別から読み解く大東亜戦争

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天皇制の検証―日本宣教における不可避の課題 (東京ミッション研究所選書シリーズ)

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https://www.wlpm.or.jp/pub/?sh_cd=1587

大嘗祭とキリスト者 (ライフ・ブックレット)

大嘗祭とキリスト者 (ライフ・ブックレット)

 

(続く)

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